2016年11月10日 東京‐総合不動産サービス大手のJLL(本社: 東京都千代田区、代表取締役社長: 河西利信)は、日本のオフィス、リテール、ロジスティクス、ホテル市場における市況、需給や空室状況、賃料・価格動向及び12ヵ月予測をまとめた調査レポート「ジャパン プロパティ ダイジェスト(JPPD)2016年第3四半期」を発表しました。セクター別の概要は、以下の通りです。
東京のAグレードオフィス市場
■ 賃料
18四半期連続の上昇
月額坪当たり35,840円(共益費込)となり、前期比0.2%の上昇、前年比3.3%の上昇となり、18四半期連続の賃料上昇となったものの、上昇ペースは3四半期連続で減速した。
■ 空室率
2007年以来初めて1.5%を下回る
空室率は1.4%となり、前期比0.4ポイント低下、前年比1.9ポイント低下した。底堅い需要と限定的な新規供給を背景に、CBD(中心業務地区)全体で空室が減少し、2007年以来初めて1.5%を下回る低水準となった。
■ ネット・アブゾープション※1
第3四半期は30千m2 となった。空室が限定的となっていることから大型の移転は減少しているものの、前期に引き続き製造業や情報通信業の堅調な移転・拡張需要がみられた。年初から当3四半期までの総計は333千m2 となり、2015年通年の96%となり、前年の実績にせまった。
■ 価格・投資利回り
価格は16四半期連続で上昇
価格は前期比0.1%上昇、前年比9.3%上昇となった。投資利回りは前期比横ばいで推移しており、賃料上昇を反映した。投資市場では、投資家の取得意欲は旺盛となっているが、市場に供される物件は限定的となっている。
■ 12ヵ月見通し
賃料と価格の上昇ペースは2017年に減速
2017年にかけての限定的な新規供給を受けて、空室率は3%を下回る低水準で推移し、賃料は緩やかに上昇する見通し。ただし、2018年の供給予定は2003年に次ぐ大規模な水準となっており、賃料上昇率への影響が懸念される。投資家の高い関心を反映して、価格は上昇する見通し。
※1当期中に新たに賃貸された床面積から当期中に退去した床面積を控除したネットの床面積の増減
大阪のAグレードオフィス市場
■ 賃料
9四半期連続の上昇
月額坪当たり17,013円(共益費込)。前期比0.9%、前年比5.5%の上昇となった。9四半期連続の上昇となり、上昇ペースは2四半期連続で加速した。
■ 空室率
2四半期連続で3%台
空室率は3.8%、前期比横ばい、前年比1.7ポイントの低下となった。きわめて限定的な供給と底堅い需要を背景に、空室率は2四半期連続で4%を下回り、2008年以来8年ぶりの低水準が続いた。
■ ネット・アブゾープション
年初から当四半期までのネット・アブゾープション総計は30千m2 。56千m2 の新規供給がみられた前年比の30%程度にとどまっている。建設業、製造業、卸売業等のテナントの需要がみられ、2次空室も難なく吸収されたものの、新規供給がないために賃貸借面積の純増は限定された。
■ 価格・投資利回り
価格は12四半期連続上昇
価格は前期比4.0%上昇、前年比18.4%上昇となった。投資利回りは、4四半期連続で4%を下回った。投資利回りの低下と賃料上昇を反映して価格の上昇ペースは2四半期連続で加速した。東京以外の都市圏を投資対象として捉えはじめた国内外の投資家からの高い関心が認められた。
■ 12ヵ月見通し
賃料と価格は2017年に緩やかに上昇
2017年には7四半期ぶりの新規供給が予定されているが、空室率は4%を下回る水準で推移する見通し。賃料は引き続き上昇が見込まれるものの、上昇ペースは減速すると予測。投資利回りは、横ばいで推移するとみられることから、価格は賃料上昇を反映して緩やかに上昇する見通し。
JLLリサーチ事業部長の赤城威志は、次のように述べています。
「東京と大阪のAグレードオフィス賃貸市場では、限定的な供給が需要を抑制しており、賃料の上昇ペースは緩やかです。2017年に空室率は上昇する見込みですが、需給の均衡を示す水準は下回って推移するとみられることから、賃料は緩やかながらも上昇する見通しです。投資市場では、物流とホテルは好調となりましたが、牽引役のオフィスが弱かったため、投資総額は抑制されました。低金利環境の恩恵は買主・売主双方が享受しているため、市場に供給される物件が限定的となっていることが一因に挙げられます。この環境は当面続くとみられ、2016年の投資総額は前年比減少となると予測しています」
東京のリテール(商業施設)市場
■ 賃料
16四半期連続で上昇
月額坪当たり78,304円(共益費込)。前期比0.7%上昇、前年比4.8%上昇となり、16四半期連続の上昇となった。
■ 価格・投資利回り
12四半期連続で上昇
価格は前期比0.7%上昇、前年比12.3%上昇となり、主に賃料上昇を反映した。当四半期の投資事例には、事業会社によるダミアーニ銀座タワーとCSS Buildingの取得が挙げられ、1階テナントにはそれぞれイタリア宝石ブランドとスイス高級腕時計ブランドが入居している。
■ 需要
引き続き堅調な出店需要
出店戦略に対して慎重姿勢を強めているリテーラーもみられたが、第3四半期にラグジュアリーブランドやインポートブランドの需要は底堅かった。第3四半期は、ヴァレンティノが日本初の旗艦店を表参道ヒルズに開業した。銀座では、ラペルラが2月に出店した青山店に続く新店舗をオープン、ティファニーがブライダルショップをオープンした。
■ 12ヵ月見通し
賃料と価格は緩やかに推移
2017年4月に「ギンザ シックス」が竣工予定であるものの、需給の逼迫は続くとみられることから、賃料は当面高水準が維持される見通し。投資家の関心はさらに高まっており、投資利回りは一層低下する可能性がある。
東京のロジスティクス(物流)市場
■ 賃料
4四半期ぶりに上昇
月額坪当たり4,139円(共益費込)、前期比0.3%上昇、前年比1.4%下落となった。当四半期は東京ベイエリアが上昇を牽引し、4四半期ぶりに上昇に転じた。東京内陸エリアの賃料は引き続き下落した。
■ 空室率
2四半期ぶりに上昇
空室率は8.0%、前期比0.6ポイント上昇、前年比5.2ポイントの上昇となった。東京ベイエリアの空室率が前期比1.4ポイント上昇、東京内陸エリアが同0.4ポイント上昇し、概ね新規供給の空室を反映した。
■ 価格・投資利回り
価格は3四半期ぶりに上昇
価格は前期比2.3%上昇、前年比0.9%上昇となり、賃料上昇と投資利回りの低下を反映して3四半期ぶりにプラスに転じた。投資利回りは、東京ベイエリア・東京内陸エリアともに前期比で低下し、ともに記録的低水準を更新した。
■ ネット・アブゾープション
ネット・アブゾープションは213千m2 。3PL企業やeコマース企業等の需要により、ベイエリアでの新規供給や、内陸エリアの新築物件を吸収した。また、年初から当四半期までの総計893千m2 となり、2015年通年比120%に相当し、前年の実績を上回った。
■ 12ヵ月見通し
賃料、価格ともに緩やかに上昇
2017年の新規供給は2016年の記録的な水準を上回る規模が予定されているものの、引き続き需要は堅調に推移するとみられることから、空室率は緩やかに低下し、賃料は緩やかに上昇する見通し。投資利回りは、主要経済圏において取引されている物件に鑑みると低下余地があるとみられ、このことと賃料上昇を反映し、価格は緩やかに上昇する見通し。
東京のホテル市場
■ 需要
インバウンド客の貢献により宿泊需要の基盤は引き続き堅固
円高の進行に伴い、外国人にとって日本への旅行は割高となりつつある。訪日外客数の上昇は昨年からペースダウンしており、昨年1月-8月の訪日外国人数の伸び率は49.1%増であったが、2016年1月-8月の訪日外国人数は対前年同期比で24.7%増の1,610万人となった。
国内の総宿泊需要の12.8%を占める東京都の延べ宿泊者数は、2016年初来6月までの累計で2,500万人であった。都内延べ宿泊者数の32.4%を占める外国人宿泊者数は、対前年比1.8%増の810万人であったが、日本人宿泊者数は対前年比6.8%減の1,680万人であった。
■ 供給
2軒の5ツ星ホテルが開業
2016年第3四半期は5ツ星ホテルの開業が続いた。高級旅館を運営する星のやは、客室数84室の高級旅館「星のや東京」を開業し都市部への初進出を果たした。また、715室の「旧赤坂プリンス」の跡地では、250室の5ツ星ホテルとして「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」が開業した。
■ 運営パフォーマンス
客室稼働率の低下にも関わらずRevPARは成長を維持
1日当り販売可能客室数当り宿泊売上(RevPAR)が2016年初来8月までの累計で前年比3.4%の増加と昨年からの成長が持続している。客室稼働率は対前年比4.0%の低下となった一方で、平均客室単価(ADR)が対前年比7.8%上昇したことよる。また、年移動平均でRevPARは2012年第2四半期以来、継続して成長軌道にある。
■ 売買
東京の5ツ星ホテルの取引は見られなかった。年内では、2016年5月に「ホテル グランパシフィックLE DAIBA」が約659億円(一部屋当たり7,450万円)で取引された。
■ 12ヵ月見通し
RevPARは成長するものの、ペースは減速
円高が急速に進んだことによりインバウンド客にとって日本は割高な旅行先と見られつつあり、今後、訪日外客数の増加ペースが鈍化する可能性が懸念される。ADRの上昇は緩やかになり、その結果RevPARの成長ペースも減速すると予想される。ホテル投資マーケットに関しては、NOI成長が減速する中キャップレートの低下も鈍化すると見込まれる。
JLLホテルズ&ホスピタリティ事業部マネージングディレクターの沢柳知彦は、次のように述べています。
「訪日外国人観光客数は、依然増加基調にあるものの、円高や中国経済の減速といった要因を背景に、東京のホテルパフォーマンス(RevPAR)は、第3四半期においてほぼ前年実績と同水準に留まり、2012年以降持続していた大幅な成長に歯止めがかかりました。インバウンド客への依存が高まっている国内のホテルマーケットにおいては、アジアを中心とする海外景況の影響を受けやすく、外的環境の安定が期待される状況にあります。昨今、話題に取り上げられている民泊営業のホテル業への影響については、統計等に基づき実態は把握できていないものの、非合法営業も含め、既に相応の影響を与えているものと見込まれます。」
【補足】
本レポートの日本での調査対象地区は次の通りです。
東京CBD(中心業務地区):千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区
大阪CBD(中心業務地区):中央区、北区
東京リテール:銀座と表参道のプライムリテールマーケット
東京ロジスティクス:東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県の一部)の新型物流施設
東京ホテル:特段の説明がない限り東京所在の5ツ星ホテルマーケット
「ジャパン プロパティ ダイジェスト(JPPD) 2016年第3半期」の詳細はwww.joneslanglasalle.co.jpをご覧ください。
JLLについて
JLL(ニューヨーク証券取引所上場:JLL)は、不動産オーナー、テナント、投資家に対し、包括的な不動産サービスをグローバルに提供する総合不動産サービス会社です。フォーチュン500に選出されているJLLは、世界80ヵ国、従業員約60,000名、280超拠点で展開しており、総売上高は60億米ドル、年間の手数料収入は約52億米ドルに上ります(2015年12月31日時点)。2015年度は、プロパティマネジメント及び企業向けファシリティマネジメントにおいて、約3億7,200万m2 (約1億1,200万坪)の不動産ポートフォリオを管理し、1,380億米ドルの取引を完了しました。JLLグループで不動産投資・運用を担当するラサール インベストメント マネジメントは、総額597億米ドルの資産を運用しています。JLLは、ジョーンズ ラング ラサール インコーポレイテッドの企業呼称及び登録商標です。www.jll.com
JLLのアジア太平洋地域での活動は50年以上にわたり、現在16ヵ国、94事業所で36,000名超のスタッフを擁しています。JLLは、2016年インターナショナル・プロパティ・アワード・アジア・パシフィックにて、合計15の賞を受賞しまし、リアル・キャピタル・アナリスティックスより、アジア太平洋地域のトップ投資アドバイザーに選出されています。www.ap.jll.com
JLL日本法人の詳細な情報はホームページをご覧下さい。
www.joneslanglasalle.co.jp
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