【グローバル都市不動産研究所 第三弾】2020年東京オリンピック後に東京都の不動産価格はどうなるのか?2012年ロンドンオリンピックの動向を分析

GLM

2019年12月13日 12時05分

~都市政策の専門家 市川 宏雄 氏 監修~

投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメント(本社:東京都渋谷区、代表取締役:金大仲、以下「GLM」)は、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発、等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所(以下、同研究所)」を2019年1月1日に設立しました。(研究所URL:https://www.global-link-m.com/company/institute/
同研究所では調査・研究の第三弾として、各国のオリンピック開催後の景気動向およびロンドンオリンピック前後の不動産価格の動向について調査し、2020年東京オリンピック後に東京都の不動産価格はどうなるのかを予測いたしました。



~分析結果ダイジェスト~
【TOPICS1.】近年、東京の不動産価格は堅調に推移している


東京都区部の公示地価の対前年平均変動率は全国に先駆けてプラスに転じている。推移をみると、区部都心部で力強い上昇が始まり、その後区部南西部、区部北東部に波及している。
2020年東京オリンピック開催が決定した2013年9月から東京の公示地価の上昇が始まっているが、アベノミクスによる金融緩和政策が反映されているといえる。また、金融機関が不動産向け融資を大幅に増やしたことも影響している。
近年の区部北東部や臨海部の地価の上昇は、東京スカイツリータウン開業、大学移転などに伴う北千住エリアの都市開発やオリンピック関連施設の建設などで改めて注目された結果といえる。


【TOPICS2.】各国のオリンピック開催後の景気動向、およびロンドン五輪前後の不動産価格動向


過去30年の夏季オリンピック開催国で開催後にGDP成長率が低下したのはスペイン、オーストラリア、中国、ギリシャだが、いずれもITバブル崩壊やリーマンショックなど他の影響が大きいとされている。一方、アメリカとイギリスではGDP成長率の上昇がみられている。東京もロンドン五輪をモデルにコンパクトなオリンピック作りを目指しているため、東京オリンピック終了を主要因に景気が急速に減退する可能性は低いだろう、と予測する。
ロンドン五輪開催後の各区の不動産価格を見ると、区によってもばらつきがあるが、ロンドンの都心6区は上昇している。


【TOPICS3.】2020年東京オリンピック後に不動産価格はどうなるのか


プラス要因として、今後も東京都心区では2040~45年ごろまで人口増加が続くと予想され、住宅需要は今後とも旺盛と言える。海外からの訪日外客数はオリンピック以降も堅調に増加すると政府は予測している。さらにリニア中央新幹線の開通が2027年に予定されており、東京と名古屋の経済圏が近接し、東京の経済力がさらに高まるという期待もある。
一方マイナス要因としては、米中摩擦やヨーロッパ諸国の成長鈍化によって今後の世界経済が減速に向かい、東京への投資の鈍化の可能性がある。TOPICS2.のロンドンの不動産価格の動向でもみたように、東京でも全ての地域が一様に好条件というわけではない。景気が減退する局面になるとエリアの差が顕著に表れるため十分に注視必要がある。

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【TOPICS1.】近年、東京の不動産価格は堅調に推移している
●東京への人口流入・流出の状況(2018年)
東京都区部の公示地価の対前年平均変動率は、2014年以降、住宅地、商業地とも全国に先駆けてプラスに転じ、その率は2019年には住宅地で4.8%増、商業地で7.9%増となりました。その推移をみると、はじめに区部都心部で力強い上昇が始まり、その後、区部南西部に波及し、2018年からは区部北東部で増加率を高めています【表1】。



●東京の不動産価格と2020年東京オリンピックとの関係
東京の不動産価格とオリンピックとの関係でみると、2020年東京オリンピック開催が決定したのは2013年9月であり、東京の不動産価格(公示地価)の上昇が始まった時期と重なっているようにもみえます。しかし、近年の不動産価格上昇の主たる要因の一つは、アベノミクスによる金融緩和政策と、それに引っ張られた形の人々の楽観的未来志向の影響が色濃く反映されているといえます。国家戦略特区の導入による都市開発の活発化が現実のものとなりましたが、もちろん、異次元の金融緩和、超低金利政策によって、金融機関が不動産向け融資を大幅に増やしたことで、不動産投資のマーケットが活性化し、それが大きく影響したことは間違いありません。

●その他の要因
これに並行して、海外投資家からの資金流入、インバウンド需要、大丸有(大手町・丸の内・有楽町エリア)・日本橋・銀座、虎ノ門・六本木、品川などの大型プロジェクト、オリンピック関連の都市開発・インフラ整備などの要因が重なり、不動産投資の意欲が活況を呈したといえます。また、近年の区部北東部や臨海部の地価の上昇は、東京スカイツリータウン開業、大学移転などに伴う北千住などの都市開発、湾岸エリアのタワーマンションやオリンピック関連施設の建設など、都心の北東部、臨海部が改めて注目された結果といえます。

【TOPICS2.】各国のオリンピック開催後の景気動向、およびロンドン五輪前後の不動産価格動向
東京オリンピックが終了した後に景気動向はどのように予測されるでしょうか。前回の1964年東京オリンピック開催のときは、翌年にオリンピック不況が訪れたこともあり、今回も景気後退になるのではないかと恐れる声も一部に聞かれます。

●各国のオリンピック開催後の景気動向
そこで、過去30年ほどの夏季オリンピック開催国について、オリンピック開催前後の景気動向をみてみると【表2】、オリンピック開催後にGDP成長率がマイナスとなったのは、スペイン(1992年バルセロナ五輪)のみでした。しかし、これは、ヨーロッパ通貨危機による欧州地域全般の景気低迷が影響したもので、オリンピック終了が景気減退の要因になったわけでないと言われています。


オーストラリア(2000年シドニー五輪)、中国(2008年北京五輪)でのGDP成長率の低下も、それぞれITバブル崩壊(2001年)、リーマンショック(2009年)の影響が大きいとされ、また、GDP成長率が大きく低下したギリシャ(2004年アテネ五輪)の場合は、オリンピック開催に向けた建設ラッシュの大幅なピークアウトが原因とされています(みずほ総合研究所「日本経済は五輪ロスに陥るのか」(2018年12月5日公表)を参照)。

一方、アメリカ(1996年アトランタ五輪)、イギリス(2012年ロンドン五輪)では、むしろオリンピック後にGDP成長率の上昇がみられています。とくにロンドンオリンピックは、戦後初の成熟した都市でのオリンピックとして、都市の再生や環境への配慮、既存施設の活用やコンパクトな会場づくりが計画され、過剰な投資は抑えつつ、オリンピック後にもそれらの施設をレガシー(遺産)として利用することが目指されました。これによって、都市の新たな価値の創出や、オリンピック後の観光・ビジネス関係の集客力の向上に貢献したと言われています。2020年東京オリンピックも、このコンセプトをモデルに、コンパクトなオリンピック作りを目指しています。過去のオリンピック前後の景気動向を参考にすれば、今回は成熟した都市での開催となるため少なくともオリンピック終了を主要因に景気が急速に減退することはないだろう、と予測されます。

●ロンドンオリンピック前後の不動産価格の動向
オリンピック開催が不動産価格にどのような影響を与えるのでしょうか。ロンドンを例に、オリンピック開催前後の平均住宅価格(中間値)の動向についてみてみましょう。



ロンドン都心6区(シティ、カムデン、ウエストミンスター、イズリントン、ケンジントン・アンド・チェルシー、サザーク)では、オリンピック決定後、シティを中心にロンドン平均を超える価格の上昇をみせました。2008年のリーマンショックの影響で一旦下がりますが、2012年のオリンピック開催後にはシティ、ウエストミンスター、ケンジントン・アンド・チェルシーの都心中心部の価格が急激に伸びています【図1】。


オリンピック主会場が置かれたストラッドフォード地域(ハックニー、ニューアム、タワーハムレッツ、ウォルサムフォレスト)では、ニューアム、ウォルサムフォレストがオリンピック決定前後からロンドン平均を超える上昇を始め、オリンピック開催後にはさらにニューアム、ウィルサムフォレスト、ハックニーとも急激に伸びています【図2】。



ロンドンでは、オリンピックを起爆剤として都市の価値を高め、それに伴って不動産価格が上昇したのだと考えられています。
ただし、2009年以降はリーマンショック後の世界的な景気拡大期であったこと、ロンドン都心中心部のシティ、ウエストミンスター、ケンジントン・アンド・チェルシーはもともと高級住宅街であり、そこに好景気で需給が逼迫したという側面も見逃せません。その意味では単純にオリンピック開催だけがロンドン全体の不動産価格上昇の要因となったとは言えません。

これに対してオリンピック主会場となったイーストロンドンは、製造業の長期的凋落により、工場地帯が廃墟化して荒れ地となり、ロンドンで最も貧しい場所とされていた地域でした。そこにオリンピック・パーク整備に伴う都市再生や鉄道路線の拡張などによって見違えるレベルの改善がなされたことによってロンドン市内の他の地域にやっと肩を並べるレベルまできました。その意味ではこの地域に限っていえばオリンピック開催が不動産価格上昇の要因となったと言えます。

グラフでみるように、各区の不動産価格の上昇は一様ではなく、ロンドン平均を超えて大きく上昇したところ、ロンドン平均を下回るところなど、区によってもばらつきがあるものの、都心6区はいずれの区においてもオリンピック開催後は上昇しています。

【TOPICS3.】2020年東京オリンピック後に不動産価格はどうなるのか
2013年以降、東京では都心を中心に住宅価格が上昇してきました【図3】。東京オリンピック後の不動産価格を予想するにあたり、プラス要因、マイナス要因の2つの側面から考えてみます。



●プラス要因
今後の東京の不動産価格を予想する上で、最大のプラス要因は、今後とも東京都区部の人口の増加傾向が続くという点です。東京都区部全体では2035年ごろまで、さらに都心区では2040~45年ごろまで人口増加が続くと予測され、住宅需要は今後とも旺盛と言えそうです【表3】。




海外からの旅行者数(訪日外客数)は、2011年に東日本大震災の影響で若干落ち込んだものの、その後、急速に増加を続けており、2013年に1000万人を超え、2018年には3120万人に至っており、東京だけでも1200万人を超しています。海外の多くの方が実際に日本に訪れ、日本を体験し、その魅力を知ることでこれらインバウンド需要は、オリンピック以降も堅調に増加すると政府は予測しています【図4】。



また、東京の大規模都市開発プロジェクトは、日本橋・八重洲、虎ノ門・六本木、渋谷、品川などを中心に今後とも続き、オフィス供給、住宅供給がさらに行われる状況となっています。すなわち、それだけの需要があるとの見込みが少なからずあるからだといえます。さらにリニア中央新幹線(品川~名古屋間)の開通が2027年に予定されています。これによって東京と名古屋の経済圏が近接し、東京の経済力がさらに高まるという期待もあります。

●マイナス要因
一方、マイナス要因としては、米中摩擦やヨーロッパ諸国の成長鈍化によって、今後の世界経済が減速に向かう懸念や、これに伴う海外からの東京への投資の鈍化の可能性も否定できません。また、国内的には消費性向の減退による景気の冷え込み、ローンの貸付利率の上昇、増加傾向にあった海外からの旅行者の鈍化などが心配され、これらが複合的に不動産の購買意欲低下のリスクにつながる可能性があります。

また、東京23区内であっても、すべての地域が一様に好条件というわけではありません。区によっては大規模都市開発プロジェクトの恩恵にあずかれなかったり、早めに人口減少が開始したりする区もあります。ロンドンの不動産価格の動向でもみたように、エリアによってその動向に大きな差があり、それは景気が減退する局面になると顕著に表れてくるので、今後十分に気を付ける必要があります。

※本ニュースレター内容の一部は、みずほ総合研究所「【緊急レポート】不動産市場は転換点にあるのか?」(2018年7月10日)、みずほ総合研究所「日本経済は五輪ロスに陥るのか」(2018年12月5日)、みずほ総合研究所「五輪ロスはあるか?2020年以降の需要は根強い」(2019年1月17日)、三井不動産リアルティ「【専門家が語る不動産投資】2020年東京オリンピック後の不動産マーケット」(2019年6月24日)を参考にしました。


【都市政策の専門家 市川宏雄所長による分析結果統括】
~オリンピック開催の影響がどこに表れるかがポイント~

オリンピック開催で東京の不動産価格がどうなるかについては、大規模イヴェント開催の直接的効果と、その時の社会情勢や経済状況という背景的事情を与条件として、最終的には即地的視点、すなわち場所によって異なるというのが、2012年に開催されたロンドンオリンピックで得た教訓です。

たしかに、オリンピックを起爆剤として都市の価値を高めたロンドンは、それに伴って不動産価格も上昇したのですが、それが顕著に表れたのは都心の伝統的な高級住宅地と、新たな大規模開発が行われて交通アクセスも改善された低開発エリアであった北東部です。ブランド力のあるエリアと大規模開発が行われることでインフラ整備がなされるエリアが地価上昇の可能性が高いという不動産の鉄則が実証されました。

東京で続いている地価の上昇は、経済的なドラスティックな変化が起きなければ、海外からの来外客の増加も含めて、当面はその傾向が続くかもしれません。東京で行われている大規模開発がさらに海外からの需要を引き付けていくという期待もあります。しかし、既に不動産は1990年代のバブル期の価格水準に近づきつつあり、米中摩擦やヨーロッパ諸国の成長鈍化で世界経済が急速に減速するというリスクも考えると、オリンピック開催後の動向について考えるには、あらためて不動産価格上昇の鉄則に従うことの重要性がこれからますます高まることになります。

●取材可能事項
本件に関して、下記2名へのインタビューが可能です。




氏名  :市川 宏雄(いちかわ ひろお)
生年月日:1947年 東京生まれ(71歳)
略歴   :早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士。世界の都市間競争の視点から大都市の将来を構想し、東京の政策には30年間にわたり関わってきた。東京研究の第一人者。現在、明治大学名誉教授、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。







氏名  :金 大仲(きむ てじゅん)
役職  :株式会社グローバル・リンク・マネジメント 代表取締役
生年月日:1974年6月2日(45歳)
略歴   :神奈川大学法学部法律学科卒業。新卒で金融機関に入社。その後、家業の飲食店を経て大手デベロッパー企業に転職し年間トップセールスを達成。そこでの経験を経て30歳の時に独立し、グローバル・リンク・マネジメントを設立。

※ご取材をご希望の際は、グローバル・リンク・マネジメントのIR・広報課までお問い合わせください。


●株式会社グローバル・リンク・マネジメント会社概要


会社名:株式会社グローバル・リンク・マネジメント
所在地:東京都渋谷区道玄坂1丁目12番1号渋谷マークシティウエスト14階(総合受付18階)
代表者:代表取締役 金 大仲
設立年月日 :2005年3月
資本金 :499百万円(2019年6月期末現在)
業務内容 :不動産開発、分譲、賃貸管理、マンション管理、仲介
免許登録 :宅地建物取引業 東京都知事(3)第84454号、マンション管理業 国土交通大臣(2)第033627号
所属加盟団体:(社)東京都宅地建物取引業協会、(社)全国宅地建物取引業保証協会、(社)全国住宅産業協会(財)東日本不動産流通機構、(社)首都圏中高層住宅協会
関連会社 :株式会社グローバル・リンク・パートナーズ
役員 :専務取締役 富永 康将、取締役 鈴木 東洋、取締役 富田 直樹、取締役 中山 満則、社外取締役 賀茂 淳一、社外取締役 琴 基浩、社外取締役 中西 和幸


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