~商業地の下落が懸念されるが、経済対策や東京五輪が下支え~
投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメント(本社:東京都渋谷区、代表取締役:金大仲、以下「GLM」)は、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発、等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所(以下、同研究所)」を2019年1月1日に設立しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大により、2020年3月11日、世界保健機構(WHO)はついにパンデミック(世界的な大流行)を宣言しました。日米など先進7カ国(G7)首脳による緊急テレビ電話会議などを経て、同月24日、安倍首相と国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長との合意により、東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)は1年程度延期されることが決まりました。
同研究所では調査・研究の「緊急企画」として、今回のコロナショックと東京五輪延期が東京の不動産にどのような影響を与えるのかを4月14日時点においての予測をしました。
===分析結果ダイジェスト===
TOPICS1. リーマンショック時の不動産の動向
・リーマンショック時の公示地価の動向をみると、商業地価格に対する影響が出た。住宅地価格は、商業地と比べて大きく下がらなかった。東京都内のマンション価格は、新築、中古とも6%程度の下落にとどまり、1年程度で回復した。
TOPICS2. コロナショックが不動産に与える影響
・金融危機だったリーマンショックと異なり、コロナショックはヒト、モノの移動を大幅に抑え込む実体経済の危機である。
・観光業、飲食業、小売業などのサービス業に対する影響が大きく、これらが立地する商業地の不動産価格は下落する可能性がある。
・一方、住宅地の不動産価格は、商業地よりも影響は少ないと予想される。もちろん、深刻な不況に陥れば、家計所得の大幅な低下にもつながるので、住宅地であっても不動産価格の低迷が続くおそれもある。
TOPICS3. 東京五輪効果と経済対策がポイント
・東京五輪の延期について、エコノミストの見解では「中止でなく延期であれば、五輪開催年の経済効果は先送りされ、失われることはない」とするものがある。
・ただし、「先送りをしても期待通りの効果が出現するには、それまで国内観光業界が持ちこたえ、企業倒産が食い止められるよう、政府が適切な経済対策を行うことが、重要なカギを握る」と警鐘を鳴らしている。
・日本経済の腰折れを防ぐため、今年1年どれだけ政府の経済対策が大胆かつ的確に行われるかが注目される。
======
■TOPICS1. リーマンショック時の不動産の動向
今回のコロナショックが及ぼすであろう世界的な経済危機について、近年の事例で参考になるのはリーマンショックです。2008年9月にアメリカで発生したリーマンショックは、世界規模の金融危機をもたらし、世界経済は深刻な景気後退に陥りました。アメリカやユーロ圏、イギリスを含む先進国経済は、2009年にマイナス3.4%、世界経済の成長率はマイナス0.5%と、過去60年間で初のマイナス成長になりました【図1】。
この時、東京および全国大都市の不動産にどのような影響があったのでしょうか。
・公示地価の動向
公示地価の動向をみると、東京圏の住宅地は2009年マイナス4.4%、2010年マイナス4.9%(商業地は2009年マイナス6.1%、2010年マイナス7.3%)となっています。不動産価格の動向は経済状況に遅れて現れるため、リーマンショック2年後の方がマイナス幅は大きくなっています。また、その下落率は、住宅地よりも商業地の方が大きい結果となりました。この傾向は、名古屋圏、大阪圏とも同様です。その中でも、東京都区部の住宅地は、2009年マイナス8.3%、2010年マイナス6.5%と比較的はやく回復しています。一方、東京都区部を地域別にみると、2008年までに大きく上昇を見せていた区部都心部、区部南西部の方が下落率はより大きく、区部北東部や多摩地域では小規模に留まっています【図2~5、表1】。
・新築マンションの分譲価格
また、新築マンションの1平方メートル あたり分譲価格をみると、2008~2009年にかけて販売戸数をかなり抑えたことで、2009年は東京圏マイナス1.2%、東京都区部マイナス6.4%の下落となったものの、1年後にはプラスへと回復しています【表2】。中古マンション(成約分)の1平方メートル あたり単価をみても、2009年に東京圏マイナス5.3%、東京都マイナス6.3%、東京都区部マイナス6.2%となったものの、1年後には回復しています【表3】。
これらのデータを踏まえると、リーマンショックの影響は、商業地価格の方がより強く現れ、住宅地価格は、商業地と比べて大きく下がらなかったことが分かります。また、東京都内及び東京都区部のマンション価格は、リーマンショック時においても新築、中古とも6%程度の下落にとどまり、1年程度で回復しています。
■TOPICS2. コロナショックが不動産に与える影響
・リーマンショックとの違い
今後の経済動向が直接的に不動産価格に影響を与えるのは、商業地の価格であって、住宅地の価格は居住という安定した実需があるため、商業地と比べてそれほど大きくは下がらない傾向にあります。また、今回のコロナショックの影響がリーマンショック級で収まるならば、東京都及び東京都区部のマンション価格は、1~2年後には回復していく可能性もあります。しかしながら、今回のコロナショックによる経済危機は、リーマンショックの時とは質が違うとの見解もあります。リーマンショックは金融危機でありましたが、コロナショックはヒト、モノの移動を大幅に抑え込む実体経済の危機なので、その傷はかなり深くなるとの指摘です。
・不動産価格への影響
今回のコロナショックによるヒト、モノの移動の制限で大きく痛手を受けるのは、観光業、飲食業、小売業などのサービス業です。これらが立地する商業地の不動産価格は大きく下落するかもしれません。
一方、住宅地の不動産価格は、商業地よりも影響は少ないと予想されます。ただし、深刻な不況に陥れば、家計所得の大幅な低下につながるので、住宅地であっても不動産価格の低迷が続くおそれもあります。
現在、世界および日本の新型コロナウイルスの感染状況は刻々と変化しており、多くを見通せない状況にあります。今後の不動産市場を占う上で、コロナショックが日本経済に与える影響を十分に注視していく必要があります。
■TOPICS3. 東京五輪効果と経済対策がポイント
・東京五輪が1年後に。どうなる、経済対策
TOPICS2.で記載したように、コロナショックによって商業地の不動産価格に対する影響が予想されます。深刻な不況に陥れば、住宅地での不動産価格に影響が及ぶ可能性もあります。日本経済の腰折れを防ぐため、今年1年どれだけ政府の経済対策が早急に、大胆かつ的確に行われるかが注目されます。
この経済対策は、東京五輪の延期とも関連します。東京五輪の延期に伴い、今年度に見込んでいた経済効果が失われると指摘するエコノミストがいます。例えばニッセイ基礎研究所は、今年度見込んでいた経済押上げ効果“2兆円程度”が剥離、第一生命経済研究所は開催年に期待される経済波及効果3.2兆円が失われると予測しています。
一方、永濱利廣・第一生命経済研究所首席エコノミストの見解では、「中止でなく延期であれば、五輪開催年の経済効果は先送りされ、失われることはない」、「当初予定された開催年の経済効果は、先送りされた“1年程度後”に出現することになる」としています。つまり、日本においては、1年延期となった東京五輪の経済効果によって、コロナショックで冷え込んだ経済をふたたび押し上げてくれる可能性も期待されます。
しかし、永濱氏は「いくら需要が遅れて出現したとしても、それまでにサービスを供給する旅客や宿泊、外食産業などが不足すれば、需要が顕在化できない可能性もある。したがって、先送りをしても期待通りの効果が出現するには、それまで国内観光業界が持ちこたえ、企業倒産が食い止められるよう、政府が適切な経済対策を行うことが、重要なカギを握る」と警鐘を鳴らしています。
政府による経済対策が生活や企業を支え、延期した東京五輪の経済効果出現につながるのか。不動産投資家は、これらの下支え材料の動向を見極める必要があります。
<参考資料>
・ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部研究理事 チーフエコノミスト 矢嶋康次/総合政策研究部研究員 鈴木智也「東京五輪 延期の公算―経済押上げ効果「2兆円程度」が剥離か」(2020年3月24日)
・第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱利廣「東京五輪を延期させた新型コロナの影響試算、損失は想定外の規模か」(ダイヤモンドオンラインDOL特別レポート、2020年3月26日)
■都市政策の専門家 市川 宏雄 所長による分析結果統括
~これからの展開はどうなる?政府の経済対策が有効なのかが鍵~
それでは、これからの東京の不動産価格はどうなるのでしょうか。少なくとも東京五輪は1年間の延期となっているので、時間スケジュールは容易に想定できます。ところが、新型コロナウイルス禍については、この後どのくらいの期間続くのか、そして、その感染の規模がどの範囲で収まるのかによって、状況が変わることは明らかです。本ニュースレターの発表時点(2020年4月14日)では、政府から緊急事態宣言が出されましたが、あいにく感染者増が止まらない状況です。
ここで考えられるのは2つのシナリオです。1つは緊急事態宣言の終わる5月の連休明けには事態の収拾がおおむね図られ、夏には経済回復の兆しが見え、秋には正常に戻ってくる。もう1つは、コロナ騒ぎが夏を超してしまい、どうやら経済の回復は早くて年末、遅ければ来年までかかってしまうというものです。
すなわち、これから経済の低迷がどこまで続くのかによります。今回の事態になるまでの過去1~2年間における不動産価格の高騰が取りざたされていました。しかし、実はリーマン前のITバブルの時のほうが、地価は上がっていました。その意味では東京五輪に向けての不動産価格上昇は決して異常な上昇ではなかったとも言えます。公示地価及び不動産価格はそれほど大きく下がらない可能性も期待できるかもしれません。
ただし、不動産価格は経済状況の変化よりも少し遅れて変動するので、今回のことがきっかけで経済の不況が大きく、そして長いものとなると、楽観はできなくなります。なんとか、来年の夏に延期された五輪の開催時までにすべてが正常に戻っていることを願いたいものです。
■取材可能事項
本件に関して、下記2名へのインタビューが可能です。
・氏名:市川 宏雄(いちかわ ひろお)
・生年月日:1947年 東京生まれ(72歳)
・略歴:早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士。世界の都市間競争の視点から大都市の将来を構想し、東京の政策には30年間にわたり関わってきた。東京研究の第一人者。現在、明治大学名誉教授、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
・氏名:金 大仲(きむ てじゅん)
・役職:株式会社グローバル・リンク・マネジメント 代表取締役
・生年月日:1974年6月2日(45歳)
・略歴:神奈川大学法学部法律学科卒業。新卒で金融機関に入社。その後、家業の飲食店を経て大手デベロッパー企業に転職し年間トップセールスを達成。そこでの経験を経て30歳の時に独立し、グローバル・リンク・マネジメントを設立。
※ご取材をご希望の際は、グローバル・リンク・マネジメントの経営企画課までお問い合わせください。
■株式会社グローバル・リンク・マネジメント 会社概要
・会社名:株式会社グローバル・リンク・マネジメント
・所在地:東京都渋谷区道玄坂1丁目12番1号渋谷マークシティウエスト21階
・代表者:代表取締役 金 大仲
・設立年月日:2005年3月
・資本金:500百万円(2019年12月期末現在)
・業務内容:投資用不動産開発、分譲、賃貸管理、マンション管理、仲介
・免許登録:宅地建物取引業 東京都知事(3)第84454号、マンション管理業 国土交通大臣(2)第033627号
・所属加盟団体:(社)東京都宅地建物取引業協会、(社)全国宅地建物取引業保証協会、(社)全国住宅産業協会(財)東日本不動産流通機構、(社)首都圏中高層住宅協会
・関連会社:株式会社グローバル・リンク・パートナーズ
・役員:専務取締役 富永 康将、取締役 鈴木 東洋、取締役 富田 直樹、取締役 中山 満則、社外取締役 賀茂 淳一、社外取締役 琴 基浩、社外取締役 中西 和幸
企業プレスリリース詳細へPR TIMESトップへ