withコロナ時代に働き方・住まい方はどう変わるか?~感染症対策の歴史とテレワークの現状から予測する~

GLM

2020年7月8日 14時42分

グローバル都市不動産研究所 第5弾(都市政策の専門家 市川宏雄氏監修)

 投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメント(本社:東京都渋谷区、以下GLM)は、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発、等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所(以下、同研究所)」を2019年1月1日に設立しました。(研究所URL:https://www.global-link-m.com/company/institute/
 同研究所では調査・研究の第5弾として、感染症との戦いの歴史およびテレワーク実施状況を踏まえ、withコロナ時代に都市の働き方・住まい方はどう変わるのかを予測いたしました。




===分析結果ダイジェスト===
TOPICS1. 新型コロナウイルスの影響による経済見通し
・世界銀行が公表した最新予測では、2020年の世界経済成長率は▲5.2%と戦後最悪の景気後退となり、21年には4.2%まで回復。日本経済は2020年に▲6.1%と金融危機直後の09年(▲5.4%)よりも厳しい景気後退となり、21年も2.5%の回復に留まると予測。
・現状をみると年内での感染収束はかなり厳しく、来年以降に長期化する悲観シナリオがやや現実味を増してきている。

TOPICS2. 都市における感染症対策の歴史とこれから
・過去にはワクチンや治療薬の開発の前にも、都市の改造や建築デザインによって感染症の拡大予防に対処してきた。
・withコロナ時代には空調・換気設備の性能がオフィス選定の新しい価値基準になり得る。抗ウイルス性の建築材料や非接触型技術(ハンズフリー・スイッチ)などが、オフィス、住宅に取り入れられていくだろう。
・感染リスクを低減させる新たな技術やデザインが都市や建築に普及すれば、東京に住んで働き続けることの安心感が高まり、東京からの人口流出や地方分散は一過性の議論に終わるのではないかと予測。

TOPICS3. withコロナ時代に働き方、住まいはどう変わるか
・テレワーク実施率は4月時点で63%となり、3月時点の24%に比べて2.6倍に増加。一方、在宅勤務の実施率は業種・職種別で大きな差があり、仕事の効率性は「やや下がった」「下がった」が計6割を超えた。テレワークで処理できる業務の余地が思いのほか大きいと分かった半面、円滑な意思疎通のためにはオフィスがやはり必要不可欠だということが分かった。
・働き方の多様化が進んでも地方に引っ越す人は一部に過ぎず、大半の人は都心から大きく離れることはなく、従来と変わりない居住地を選択すると予測。今後はオフィスでも自宅でもない第三の場であるコワーキングスペースが注目される。

・市川宏雄所長による分析結果統括コメント
働く場、BCPとして見た場合の都心の魅力(徒歩移動、医療へのアクセス)を捨てて多くの人が地方に移住するような切迫した状態には未だなっていないが、この秋から冬にかけての新型コロナの流行によって左右されると予測。
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■TOPICS1. 新型コロナウイルスの影響による経済見通し
【コロナショックが与える影響~3つのシナリオ~】
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内新規感染者数は、4月半ばをピークに減少し、5月25日には全都道府県で緊急事態宣言が解除されました。一方、世界に目を転じれば、アメリカ、ブラジルなどで感染拡大が続いており、世界の累計感染者数はついに1000万人を超えました(6月28日・米ジョンズ・ホプキンス大学集計)。日本でも第2波、第3波への警戒は続いており、いまだ予断を許さない状況にあります。
 今回のコロナショックが世界経済・日本経済に与える影響について、三菱総合研究所は次の3つのシナリオを提示し予測しています【図1】。このうち、シナリオ1.と2.の中間が実現する可能性が高いものの、世界的な感染拡大の現状を踏まえると、最悪のケースのシナリオ3.も十分に想定しておく必要がある、としています。




 また、世界銀行が公表した最新予測では、2020年の世界経済成長率は▲5.2%と戦後最悪の景気後退となり、21年には4.2%まで回復する、日本経済は2020年に▲6.1%と金融危機直後の09年(▲5.4%)よりも厳しい景気後退となり、21年も2.5%の回復に留まるとしています【表1】。
 ただし、この予測は新型コロナウイルスの世界規模での悪影響が今年後半には落ち着くことが前提で、感染流行の長期化を見込む悲観シナリオでは、2020年の世界経済は▲8%に急落し、21年も1%程度しか回復しないと予測しています。今後のワクチンや治療薬開発の動向によりますが、現状で世界的な感染拡大がいまだ続いているところをみると、年内での感染収束はかなり厳しく、来年以降に長期化する悲観シナリオがやや現実味を増してきていると言えるかもしれません。



■TOPICS2. 都市における感染症対策の歴史とこれから
【人類と感染症の歴史】
 経済的側面は楽観できないものの、都市・建築の技術やデザインの側面では様々な変化が予測できます。人類と感染症の歴史を紐解くと、予防・治療という医学の面と、都市における公衆衛生の面の二つの進歩によって取り組んできたことがわかります。
 医学の面では、18世紀以降のワクチン開発や抗生物質の発見により、予防・治療方法が飛躍的に進展しました。死に至る病として恐れられた天然痘は、ワクチンの普及によってWHOの世界根絶宣言(1980年)に至りました。かつて黒死病(Black Death)と呼ばれたペストや19世紀に世界的に大流行したコレラも、抗生物質の投与により治療が可能となりました。
 一方、こうしたワクチンや治療薬の開発の前にも、都市の改造や建築デザインによって、感染症の拡大予防に対処してきた歴史があります。例えば、17世紀前半にペストが流行していたロンドンでは、1666年ロンドン大火後に都市再建が行われ、新築の建物をすべてレンガもしくは石造りにし、主要な通りの幅を広げたことで、都市の衛生状況が向上してペストが収まったと言われています。
 芸術の都・パリの街並みを築いたパリ大改造も、美しい都市を作ることだけでなく、中世の古い建物と細く入り組んだ道が密集し、コレラが蔓延していた不衛生な市街地を大胆に改造し、新たに街路や上下水道、公園・広場を整備することで、衛生的な近代都市に造り替えることも大きな目的とされていました。
 また、20世紀のモダニズム建築も、コレラや結核、スペイン風邪の大流行を経験した建築家たちが、感染症をデザインで解決しようとしたものでした。ル・コルビジェの代表作であるサヴォア邸(1931年竣工)は、病院のように白く塗られ、居住スペースは病原菌のいる地面から距離を取った高床構造(ピロティ形式)でデザインされています。テラスやバルコニー、屋上庭園をもつ水平屋根がモダニズム建築の共通要素とされたのも、光や空気といった自然が持つ治癒効果への関心からでした【図2】。


【withコロナ時代の都市・建築デザイン】
 こうした感染症対策の歴史を踏まえ、今回のコロナショックに対し、都市や建築デザインではどのような対策が考えられるでしょうか。
 新型コロナウイルスの感染経路は、「飛沫感染」(もしくは「エアロゾル感染」)と「接触感染」が主と言われています。世界各国では、感染制御において人と人との距離が重要との認識が共有され、「ソーシャル・ディスタンス」の考え方が提唱されています。
 今後、多数の人が集まるオフィス、商業施設、公共交通機関では、密閉回避策として空調・換気設備の高性能化(換気量の増大、高性能フィルター導入)が求められます。東日本大震災後はBCP(事業継続計画)の観点から、外資金融やIT企業を中心に高耐震性や非常用発電設備などの高スペックのオフィスビルが人気となりましたが、withコロナ時代には、空調・換気設備の性能がオフィス選定の「新しい価値基準」になるかもしれません。
 
 密集回避策としてはソーシャル・ディスタンスが重視され、都市環境の「空間」のあり方に大きな影響を与えることになります。広場やオープンスペース、広いプロムナードの価値が改めて見直され、道路に面したオープンカフェや床面積にゆとりのある商業施設がより好まれるようになり、都市開発や空間デザインも変化していくでしょう。
 密接回避策では、自転車通勤や徒歩通勤を選択する人が増え、自転車や歩行者優先のまちづくり、道路整備が一層求められます。オフィスでは、テレワークやローテーション出勤により密集回避をしつつ、座席も対面式レイアウトより、スクリーンやパーティションで仕切った並行式またはクラスター式レイアウトを選択する企業が多くなるでしょう。
 接触感染を防ぐ意味では、抗ウイルス・抗菌性能をもつ建築材料(壁やカウンターシート、手すり、ドアノブなど)がオフィス、商業施設、住宅で一般化していくでしょう。病院・介護施設などですでに使用されているハンズフリーの照明スイッチやドアスイッチ(手かざしセンサー、フットスイッチ)の普及、音声やホログラム画面で作動するエレベーターの開発など、非接触型技術が取り入れられていくでしょう。

【afterコロナ時代も東京一極集中は続くか】
 今回のコロナショックを受けて、過密都市・東京から地方へ人口が流出する、あるいは地方に積極的に人口・産業を分散すべき、との議論もあります。しかし、これまでみたように、都市は、新たな技術開発やデザインの工夫によって感染症を乗り越えてきた歴史があります。
 都市に集まって住み、働き、情報を交換し文化を享受するといった「都市の価値」、「都市の魅力」に勝るものはありません。本研究所の調査研究・第二弾「20~24歳女性が上京する理由とは?」でも、進学や就職、新しい生活や都会への憧れから、若者、特に女性の東京一極集中が加速化している実態を明らかにしました。感染リスクを低減させる新たな技術やデザインが都市や建築に普及し、東京に住み、働き続けることの安心感が高まれば、東京からの人口流出や地方分散は一過性の議論に終わるのでないか、と予測します。

TOPICS3. withコロナ時代に働き方、住まい方はどう変わるか
【テレワークの実施状況と見えてきた課題】
 withコロナの時代に、都市の人々の働き方、住まい方はどのように変わるでしょうか。
 緊急事態宣言後に外出自粛(ステイホーム)が要請され、多くの企業で半ば「強制的」にテレワーク(在宅勤務)が試行されることになりました。東京都が実施したテレワーク導入率緊急調査によると、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は、4月時点で63%となり、3月時点の24%に比べて2.6倍に増加しています。
 一方、日本生産性本部の調査(全国)では、在宅勤務の実施率は業種・職種別で大きな差があり、管理的、専門的・技術的、事務的な仕事では高い実施率だった一方で、サービス、保安、生産管理、輸送・機械運転、建設・採掘の仕事では低い実施率にとどまりました。さらに本来、在宅勤務は仕事の効率性が上がることが期待されますが、実際には「やや下がった」「下がった」が計6割を超え、期待通りの成果を上げられていないことが明らかになりました。
 テレワークの課題については、「職場に行かないと閲覧できない資料・データのネット上の共有化」との回答が最も多かったほか、「(自宅の)通信環境の整備」、「部屋や机など物理的環境の整備」といった在宅での仕事環境が整っていない点の回答も多くあげられています。その結果、コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか、の質問に「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」との回答は計6割となりましたが、逆にみれば後ろ向きな回答が4割もあったと言えます【図3~5】。







 また、パーソル総合研究所の調査(全国)によると、テレワーク実施者の割合は、緊急事態宣言前(3月9日-15日)の13.2%から七都府県宣言中(4月10日-12日)の27.9%に増加したものの、宣言解除後(5月29日‐6月2日)には25.7%と2.2ポイント減少しました。特に宣言解除後の割合を回答日別にみると、5月29日(金)は30.5%、週明けの6月1日(月)は23.0%と7.5ポイントの大幅減となり、週明けには明らかに出社モードになっていました【図6】。
 企業方針でテレワークを推奨・命令する割合も宣言中の40.7%から宣言解除後に35.2%へと5.5ポイント減少し、同研究所は、今後、感染者数の横ばいの傾向が続けば、テレワークはなし崩し的に解除されていくだろうと予測しています。



 そもそもテレワークには、在宅勤務型、モバイルワーク型、サテライトオフィス型の3種類があり、従来はサテライトオフィス型を中心に、業種や職種、働き手のニーズに応じて在宅勤務型、モバイルワーク型を適宜選択できる働き方が主流でした【図7】。また、職場内の業務すべてをテレワークで代替できるわけでなく、仕事の目標像の共有や業務の割り振り、人材育成や研修、細かなコミュニケーションのために、月あるいは週に数回集まって働くことは欠かせないので、オフィスの役割は依然として残り続けるでしょう。



 今回の半強制的な在宅勤務によって確認されたのは、テレワークで処理できる業務の余地が思いのほか大きいと分かった半面、在宅勤務が意外にも非効率的であったこと、円滑な意思疎通のためにはオフィスを無くすことは難しいということでした。
 緊急事態宣言解除を受け、企業の在宅勤務の方針も一部解除されるものの、長期的にみればテレワークが徐々に拡大する流れは間違いないところでしょう。そこでのテレワークの活用は、今回の在宅勤務一辺倒ではなく、サテライトオフィス勤務やモバイルワーク、在宅勤務を働き手のニーズに応じて組み合わせた形となり、まさに働き方の多様化が実現していくものと予想されます。その時、オフィスを補完する役割として注目されるのが、オフィスでも自宅でもない第三の場であるコワーキングスペースです。サテライトオフィスやモバイルワークとして活用できるコワーキングスペースは、近年、都心を中心に急増しており、今後の動向が気になるところです【図8】。



【働き方の多様化が進み、人々の住まい方はどのように変わるか】
 業務のほとんどがテレワークで済むような業種・職種の人は、地方居住あるいは郊外居住を選択して東京を転出してしまうかもしれません。しかしこのような働き方は一部に過ぎず、大半の人は、メインとなるオフィスに何日か出社し、必要に応じてサテライトオフィス勤務やモバイルワーク、在宅勤務を適宜組み合わせる暮らしになりますので、都心から大きく離れることはなく、従来とそれほど変わりない居住地を選択することになるでしょう。むしろ、公共交通機関での長距離通勤を避け、自転車通勤や徒歩通勤をするために都心居住を志向する層も一定程度現れるのでないかと思われます。
 大東建託が発表した「住みたい街(自治体)ランキング2020」でも、上位3位を港区、世田谷区、渋谷区が占める結果となり、住みたい場所の好みに新型コロナウイルスの影響はほとんど無かったと分析しています。改めて、居住地としての東京都心の人気が確認できたのではないでしょうか。


■都市政策の専門家 市川 宏雄 所長による分析結果統括
~大都市の集積が変わる兆しは未だ見えていない~

 新型コロナの流行がいつ収まるのかは、依然として分からない状況です。今年の秋には収束の兆しが見えてくるのか、越年して来年の春から夏にはなんとか正常軌道に戻るのか、あるいはもっと長期化するのか。その行く末はウイルスの力が弱ってくるのか、ワクチンと治療薬がいつ完成するのか、という他力本願的なことになっています。
 そうした不安をかかえながら、withコロナで人々の生活と都市活動は変わりました。非常事態宣言下で多くの会社がオフィス勤務を禁じたため、大企業では9割以上が在宅勤務になったところもあり、全企業の平均でも6割を超えました。私は今まで日本テレワーク学会の会長を務めてきましたが、これまで長い間試行錯誤であったテレワークが半強制的に実施され、当たり前の状況に変わったのは興味深いことです。
 そうなるとafterコロナで、自宅でテレワークすることで都心のオフィスの需要が減るのか、感染症の罹患を恐れて都心居住者が地方移住にシフトするのかなどの議論が巻き上がっています。ただし、テレワークをしてみて、自宅は仕事がはかどらないと半数以上の人が考えています。

 21世紀になってからの20年間に、大都市への集積がより高まり、居住者の都心回帰の現象が世界の大都市で顕著になってきました。今回のパンデミックでその流れが変わるのか。それはこれからのコロナ禍の収束の状況によります。仮に来年の夏までに先行きが見えてくるのであれば都市の集積、都心回帰の動きはそれほど変わらないのではないかと推測します。コロナで3密を控えることが推奨されていますが、そもそも密度を上げることで現在の大都市活動は成り立っています。それを劇的に変えなければならない局面には、未だなっていないように思えます。郊外のサテライトオフィスや、郊外居住者、地方移住者は少し増えるかもしれませんが、働く場としてみた都心の魅力(働く場、憩いの場の両立)、BCPとして見た場合の都心の魅力(徒歩移動、医療へのアクセス)を多くの人が捨てるような切迫した状態には未だなっていません。
 ただし、万一、この新型コロナがこれから変異をとげ、来年の夏になっても世界的に脅威をふるっているとなれば話は大きく変わってきます。いずれにしても、この秋から冬にかけて、それがどちらになるのかの答えが見えてくるはずです。

■取材可能事項
本件に関して、下記2名へのインタビューが可能です。



・氏名  :市川 宏雄(いちかわ ひろお)
・生年月日:1947年 東京生まれ(72歳)
・略歴   :早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士。現在、明治大学名誉教授、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長など要職多数。





・氏名  :金 大仲(きむ てじゅん)
・役職  :株式会社グローバル・リンク・マネジメント 代表取締役社長
・生年月日:1974年6月2日(46歳)
・略歴   :神奈川大学法学部法律学科卒業。新卒で金融機関に入社。30歳の時に独立し、グローバル・リンク・マネジメントを設立。


※ご取材をご希望の際は、グローバル・リンク・マネジメントの経営企画課までお問い合わせください。

■株式会社グローバル・リンク・マネジメント 会社概要
・会社名:株式会社グローバル・リンク・マネジメント
・所在地:東京都渋谷区道玄坂1丁目12番1号渋谷マークシティウエスト21階
・代表者:代表取締役社長 金 大仲
・設立年月日:2005年3月
・資本金:509百万円(2020年6月末現在)
・業務内容:投資用不動産開発、分譲、賃貸管理、マンション管理、仲介

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