デザインの背景は、1,200件の「居心地のよさ」の声から解明した「103種の心地よさ」と大家の思い
2020年10月1日、W Inc.は、ピークスタジオ一級建築士事務所(設計・監理)、旭化成ホームズ株式会社(協力)と共に企画した戸建て賃貸住宅《誰かのための家》において、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「2020年度グッドデザイン賞」を受賞しました。
一般的に、賃貸住宅は汎用性高くアノニマスな“誰か”のために設計する一方で、当プロジェクトでは広く綿密なリサーチによって住まい手の心地よさを具現化した点が、「人間の喜びの根幹に触れる魅力に溢れている」として評価されました。
▼受賞ページ
https://www.g-mark.org/award/describe/50787?token=FlELw4wWOc《誰かのための家》とは
《誰かのための家》は、神戸市六甲の閑静な住宅地に建つ、一戸建て賃貸住宅のプロジェクトです。「まだ見ぬ誰か」が豊かに暮らす住まいを作るべく、1,200件の調査を「心地よさ」を軸に分析。主要要素のひとつである「採光面」を広くとり、出窓空間を随所に設け、暮らしの様子がまちにゆるやかに接続するすることで路地の一風景を形づくる住まいを目指しました。
「賃貸住宅」によるコミュニティの変容
土地の細分化、合理化のために容積いっぱいに住戸を詰め込んだ集合住宅の増殖、そしてエリアの高齢化に伴い、いま「住宅地」はコミュニティを失いつつあります。隣近所の顔の見えない状況は、住人の不安を増幅させ、生活をますます住戸内に閉じさせるといっても過言ではないでしょう。神戸市六甲の建主である地主は、「見知らぬ住人」よりも、地域で「共に暮らす隣人」を望み、賃貸住宅といえど住まい手固有の暮らしが構築され、地域に定着するきっかけとなるような住宅をつくりたいと考えました。
設計や建築計画は、自身もまちにひらいた事務所をもつPEAK STUDIO(ピークスタジオ一級建築事務所)が担い、住宅を切り口にまちへと広がるコミュニティを生み出す仕組みを設計しました。
「心地よさ因子」を活用した設計
賃貸住宅は、「多くの住人」にとって心地よいことが重要でありながら、その効果と信憑性を担保することは容易ではありません。しかし、旭化成ホームズの研究《戸建住宅の居住者を対象にした調査(2011)》を分析することで、103種の心地よさをもらたす要素「心地よさ因子」を抽出し、陽・風・光・季節や自然を感じるという「外部環境」と、家族への愛情を感じたり穏やかな感情になるという「心的状況」を満たすことが肝要であることが明らかに。この2つの観点から、住まい手の心的状況を前提に設計計画に導入しました。
こうした企業での研究結果を用いて、設計事務所とプロジェクトデザイナーが手を組み新しい事業アプローチの開発を行ったことも、当プロジェクトの挑戦の一つでした。今後、このアプローチは賃貸マンションのリノベーションプロジェクトへの活用も決定しており、オープンイノベーションの新たなスタイルを生み出していきたいと考えています。
(出典:「戸建て住宅の心地よさに関する居住後評価 その4 戸建て住宅の設計手法への展開-六甲の賃貸住宅によるケーススタディ-」,2019)
審査委員からの評価コメント
担当審査委員の、手塚由比氏、小見康夫氏、千葉学氏、山崎健太郎氏からは、以下のように評価をいただきました。
「賃貸住宅は、通常見えない住み手のために設計することがほとんどだ。しかしここでは、住まい手を具体的に想定し、その住まい手の心地よさを広範なリサーチから導き出して具現化している。
その方法には説得力があるし、実際に出来上がった空間は、街との積極的な繋がりがある一方で一人一人の居場所も獲得できたり、ちょっとした廊下の一角に佇めるようになっていたりと、人間の喜びの根幹に触れる魅力に溢れている。誰が住んでも、自在に使いこなしながら生活を楽しむことができる住宅だろう」。
建築概要
企画:株式会社W
設計・監理:ピークスタジオ 一級建築士事務所
構造設計:Graph Studio
施工:株式会社伊田工務店
協力:旭化成ホームズ株式会社
竣工:2019年9月
敷地面積:114.31平方メートル
建築面積:47.20平方メートル
延べ床面積:91.91平方メートル
場所:神戸市灘区
写真:田中克昌、近藤泰岳
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