【グローバル都市不動産研究所】コロナによって東京一極集中の流れは変わったのか?

株式会社グローバル・リンク・マネジメント

2020年10月21日 18時48分

~東京都の人口推計と総務省住民基本台帳人口移動報告データから分析~

投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメント(本社:東京都渋谷区、以下GLM)は、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発、等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所(以下、同研究所)」を2019年1月1日に設立しました。(研究所URL:https://www.global-link-m.com/company/institute/
同研究所では調査・研究の第6弾として、新型コロナウイルスの感染拡大が、現在、東京の人口にどのような影響を与えているかを分析いたしました。




===分析結果ダイジェスト===

TOPICS1. 2020年の東京都の人口動向・・・外国人の減少傾向が顕著
・東京都の人口推計によると、2020年5月1日に総人口がはじめて1400万人を突破したが、7月と8月の減少幅が大きくなっている。
・前年と比較すると外国人の大幅減が影響を与えている。その一方で、日本人は緊急事態宣言後の5月に若干減少し、解除された6月には増加をみせたものの、感染拡大の第2波が訪れた8月には大きく減少に転じた。

TOPICS2. 東京都の転入・転出の動向・・・転出先は近隣3県が大半で「地方」は少ない
・7月~8月に転出超過が拡大したが、総人口に比べれば、その転出超過数はほんの僅かに過ぎない。
・20~30代の年齢層を中心に転出超過、多くは隣接3県(埼玉、千葉、神奈川)に移動している。
・東京一極集中の流れが変わった、地方分散が始まったと言える状況にはまだないといえる。

TOPICS3. 東京23区の詳細分析・・・千代田区・品川区など都心の一部は人口増加
・新宿区、江戸川区、豊島区などでは外国人の減少が大きく影響を与えている。
・7月~8月には15区で日本人も減少、その一方で都心部では増加の動きも。区部外周部や都外から新たに転入か。
・東京23区に必ずしも住む必要のない人々のなかで区部外周部から隣接県などに移転する動きがあり、東京23区に住み続けたいが長時間通勤や通勤混雑を嫌う人々のなかで都心部へ移転する動きがあった、とみることができる。

■市川宏雄所長による分析結果統括コメント
新型コロナウイルスによって東京一極集中が変わると言われ始めている。確かに東京への人口の転入超過は止まりつつある。ただし、2月以降の東京の人口は4月~5月に大きく増加し、緩やかな減少に移行したのは6月以降である。仮にこれが年間を通しての転出超過となると、今年ではなく来年の話になる。しかし、今回のことで東京からの人口移動は東京圏内で起きており、地方への転出は極めて少ない。一方、都心では人口増加している区もある。来年の夏ごろにワクチンや治療薬が用意されて感染が沈静化すると、東京一極集中の終焉というフレーズが現実的なのか、よく考えてみる必要がありそうだ。

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■TOPICS1. 2020年の東京都の人口動向・・・外国人の減少傾向が顕著
 総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、東京都の人口が2020年5月と7月に転出超過となり、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)でも7月に転出超過となったことで、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で「東京一極集中の流れが変わった」、「地方分散が始まった」といった論調がにわかに現れ始めました。本当に東京一極集中の流れは変わったのでしょうか? 本年9月末に発表された東京都の人口推計と総務省の住民基本台帳人口移動報告の最新データによって分析していきます。

・外国人の大幅減、8月に日本人も減少に転じる
 東京都の人口推計(2015年国勢調査人口を基準に住民基本台帳人口の増減分を加減して算出した推計値)によると、2020年5月1日に総人口が初めて1400万人を突破しましたが、その後、減少をはじめ、9月1日現在は1398万1782人(日本人1343万6351人、外国人54万5431人)となりました。7月には5903人減、8月にはさらに11939人減と、ここ2カ月の減少幅が大きくなっています【図1】。



 前年との比較でみると、2019年は1月~8月の間に総数で7万8202人増加していましたが、2020年は3万146人の増加に留まっています。とくに外国人の大幅な減少が影響を与えており、緊急事態宣言の発令前の3月に外国人は7411人減少、さらに感染拡大の第2波が訪れた7月、8月には毎月6~7000人規模で減少が拡大し、1月~8月の間で3万1898人も減少しています。その一方で、日本人は緊急事態宣言後のステイホームを余儀なくされた5月に371人減と若干減少しましたが、緊急事態宣言が解除された6月には4489人の増加をみせました。しかし、8月になると4465人減と大きく減少に転じる結果となりました【表1】。
 現在、東京都の感染状況はピーク時より落ち着いていますが、この秋以降も日本人、外国人とも人口が減少し続けるのかどうか、あるいは回復し始めるのかが気になるところです。







■TOPICS2. 東京都の転入・転出の動向・・・転出先は近隣3県が大半で「地方」は少ない

 TOPICS1.の分析は、東京都に住んでいる人口の増減数(出生・死亡の自然増減を含む)になるので、東京都への集中が進んでいるのか、分散に転じているのかまでは正確には分かりません。そこで、総務省住民基本台帳人口移動報告によって、東京都の転入・転出の状況を詳しくみていきましょう。

・2020年7月~8月の転出超過数もほんの僅かに過ぎない

 【図2】は、東京都の転入・転出・転入超過数の2019年・2020年の比較、【表2】の上段は、東京都と国内他道府県との日本人、外国人別の転入超過数の比較、下段は、参考として国外からの日本人・外国人別の転入超過数をみたものです。





 東京都の国内他道府県との転入・転出状況を2019年と比べると、1月~2月にはそれほど変化はありませんが、3月には転入者数が10万3039人(前年同月比6401人増)、転出者が6万2840人(同5758人増)となり、いずれも前年同月を大きく上回っています。緊急事態宣言発出が予想される中で「前倒し移動」が起きたものと思われます。
 4月は、いよいよ緊急事態宣言が出され、大学のキャンパス閉鎖や会社の就職・転勤の制約などで国内での転入者数は5万9565人(同9112人減)と大幅に減少し、転入超過数は4532人(同8541人減)と前年と比べて大きく減少しました。また、国外からの日本人の転入超過数に目を転じると、3月に3904人、4月に7443人と大きく膨らんでおり、この時期に海外赴任者や留学生らが大勢帰国していたことも分かります。
 5月には緊急事態宣言が継続し、国内での転入者数が2万2525人(同1万2842人減)、転出者数が2万3594人(同7292人減)と転入・転出とも大幅減少となり、1069人の転出超過となりました。
 緊急事態宣言解除後の6月には転入超過となり、前年と同じ状況に戻るかと思われたのですが、7月には新規陽性者数が拡大して再び2522人の転出超過となってしまいました。そして8月は、転入者数が2万7524人(同3573人減)、転出者数が3万2038人(同4589人減)となり2か月連続の転出超過を記録し、その数も4514人と拡大しています。その内訳は、日本人が4011人、外国人が503人であり、日本人も国内他道府県に転出しています。また、国外への外国人の転出超過の状況も7月に1609人、8月に2189人となっており、第2波の拡大によって外国人の転出超過数も増加しているのが気になるところです。
 しかし、7月・8月の国内他道府県への転出超過数を合わせても7036人(=2522人+4514人)であり、東京都の総人口の0.05%に過ぎません。総人口に比べれば、この2カ月の転出超過数はまだほんの僅かに過ぎない、と言えるのではないでしょうか。

・20~30代の年齢層を中心に転出超過、多くは隣接3県に移動

 続いて、第1波が拡大して終息するまでの4月~6月と、第2波が拡大した7月~8月に分けて、年齢5歳階級別の転入超過数をみていきましょう。4月~6月には、この時期にもっとも転入する年齢階級である15~19歳、20~24歳の転入者数が大幅に減少し、転入超過数の縮小につながっています。一方、7月~8月には、25~29歳などで転入超過数が縮小し、30~34歳で転入超過から転出超過に転じ、35~39歳などで転出超過数が拡大しています。20代、30代を中心に幅広い年齢階級で転入が減少、転出が増加したことで、東京都の転出超過につながったことが分かります【図3-1~図3-3】。







 ここで、転出超過数が拡大した7月・8月における東京都と他道府県との移動状況をみると、東京都から他道府県への転出超過は、7月の21道県から8月の29道県へと拡大しました。埼玉県、千葉県、神奈川県の隣接3県で転出超過数の多くを占め、しかも7月から8月にかけてその数は増加しています。
 一方、茨城県、群馬県などの関東近県、長野県や静岡県、北海道や福岡県、沖縄県への移動も一部みられますが、まだ少数にとどまっています【図4】。



4月~6月にかけては15~19歳、20~24歳の転入者数の大幅な減少が転入超過数の縮小の大きな要因でしたが、7月~8月は20代、30代の年齢層で東京都を転出しようとする動きが生まれたことが分かります。これらの若年層はテレワークやモバイルワークなどへの適用力も高く、賃貸住宅などに居住する層も多いため、一時的にでも東京を離れるフットワークは軽いものと思われます。
 しかし、その転出先は、北海道や沖縄県などの地方を選択する例もごく少数あるものの、ほとんどが近隣3県を占めています。東京一極集中の流れが変わった、地方分散が始まったと言える状況にはまだないことが分かります。

■TOPICS3. 東京23区の詳細分析・・・千代田区・品川区など都心の一部は人口増加

・新宿区、江戸川区、豊島区などでは外国人の減少が大きく影響

 次に、東京23区内のそれぞれの区別に、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きく現れた4月~8月の間の人口増減の状況について分析していきましょう。
 4~8月の人口増減の総数を前年との比較でみると、2019年はすべての区で増加していましたが、2020年には14区が減少となっています。2019年に増加数が多かった世田谷区、中央区では大きく値を減らし、練馬区は減少に転じています。一方、品川区では2019年との差は少なく、江東区では2019年の増加数を上回っています。これらの区ではすでに都市開発が進んでいて、コロナの影響にかかわらず人口流入が進んだものと思われます【表3、図5】。




 また、2020年4月~8月の増減数では、新宿区(2218人減)、江戸川区(2039人減)、豊島区(1847人減)、港区(1639人減)、板橋区(1147人減)などで大きな減少をみせていますが、これらの区では外国人が大幅に減少しており(新宿区3235人減、江戸川区1300人減、豊島区2107人減、港区1386人減、杉並区1120人減)、外国人の減少が人口総数の減少につながったということができます。

・7月~8月には15区で日本人も減少、都心部では増加の動きも

 ただし、第1波の4月~6月、第2波の7月~8月に分けてみると、4月~6月には日本人はすべての区で増加していましたが、7月~8月には15区で日本人も減少に転じました【表4】。


 特に、江戸川区(814人減)、大田区(674人減)、中野区(488人減)、杉並区(473人減)、練馬区(438人減)などの区部外周部の区で大きな減少がみられます。一方、同じ7月~8月に、千代田区(407人)、品川区(344人)、台東区(244人)、中央区(123人)のように、区部都心部では人口が増加している区もあります。

これらの動向をTOPICS2.と照らしつつみると、

1.東京23区では、主として外国人の減少によって新宿区、江戸川区、豊島区、港区などを中心に人口減少が進んできた。
2.しかし第2波の7月~8月になると、区部外周部で日本人の減少もみられるようになった。
これらは神奈川県、埼玉県、千葉県などの近隣県に転出している。
3.一方で、7月~8月でも都心部の千代田区、品川区、台東区、中央区などでは人口が増加している。
これらは区部外周部や都外から新たに転入している。

と3つの推測を導き出すことができます。

 つまり、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、テレワークやモバイルワークなど働き方の多様化が可能となりつつある今、東京23区に必ずしも住む必要のない人々のなかで区部外周部から隣接県などに移転する動きがあり、東京23区に住み続けたいが長時間通勤や通勤混雑を嫌う人々のなかで都心部へ移転する動きがあった、とみることができるのではないでしょうか。

■都市政策の専門家 市川 宏雄 所長による分析結果統括 ~東京一極集中の流れが止まるのは一時的か~

 現在、東京の新型コロナ感染状況は減少に向かうでもなく、急激な増加になるのでもなく、一定レベルでの発症者が毎日発生する状況で推移しています。この状況の中で東京からの人口流失がどこまで起きるのかが注目されています。東京一極集中が終わるのだという過激な論調も散見されます。しかし、データを見ると緊急事態宣言の発出が予想された4月には「東京都への前倒し移動」が発生して、翌月までの2カ月間で東京都の人口は5万1千人増加し、初めて総人口が1400万人を超すことになりました。ただし、この間、外国人は転入者よりも転出者のほうが増え始めました。緊急事態宣言前の3月から起きていた国外への外国人の転出超過が宣言解除後も続き、7月に1千6百人、8月には2千人を超えており、第2波の拡大によって外国人の転出超過が目立っています。

 5月にピークとなった東京都の人口は6月以降減少をし始め、8月には6千人弱、9月には1万2千人弱の減少となっています。ただし、このペースで月に1万人程度の減少が続いても、4月~5月で増加した5万人強が相殺されて、年末には年初の人口水準になるだけで、2020年の東京都の人口が大幅な減少となる可能性は低そうです。

 実は、東京23区の中では人口減少と増加した区があるという異なる結果となっています。新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きく現れた4月~5月に、主として外国人の減少によって新宿区、江戸川区、豊島区、港区、板橋区などを中心に人口減少が進みました。しかし第2波の7月~8月になると、区部外周部で日本人の減少もみられるようになりました。これらの多くは神奈川県、埼玉県、千葉県などの東京圏に転出しているのです。この一方で、この時期に都心部の千代田区、品川区、台東区、中央区などでは人口が増加しています。これらは区部外周部や都外から新たに転入しています。

 東京一極集中とは、東京都を含む神奈川、埼玉、千葉の1都3県の東京圏への集中を意味しています。東京都の転出超過数が僅かである上に、その人口流失は主として東京圏内で吸収されています。すなわち、現状では東京一極集中の流れが変わった、とりわけ地方分散が始まったと言える状況にはありません。

この秋以降、冬にかけて日本人、外国人ともさらに人口が減少し、その数が増え続けるのか、あるいは回復し始めるのかは現段階では断定することができません。確かに、外国人については渡航の規制を緩め始めていますが、東京の人口がどうなるかは今後の新型コロナの発症状況とそれに対する医療体制の充実レベルに大きく拠ることになります。しかし、パンデミックの急激な拡大による都市活動の停止が余儀されなくなるといった重大局面に移行しない限り、人々はウィズコロナのなかで知恵を絞り、都市生活の維持に努めるのではないでしょうか。ただし、働き方が柔軟になる、大都市以外にも住む、あるいは行く場所を確保してデュアルライフをするなどの変化が生まれることは予想されます。

■取材可能事項

本件に関して、下記2名へのインタビューが可能です。



・氏名:市川 宏雄(いちかわ ひろお)
・生年月日:1947年 東京生まれ(72歳)
・略歴:早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士。世界の都市間競争の視点から大都市の将来を構想し、東京の政策には30年間にわたり関わってきた。東京研究の第一人者。現在、明治大学名誉教授、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。






・氏名:金 大仲(きむ てじゅん)
・役職:株式会社グローバル・リンク・マネジメント 代表取締役
・生年月日:1974年6月2日(45歳)
・略歴:神奈川大学法学部法律学科卒業。新卒で金融機関に入社。その後、家業の飲食店を経て大手デベロッパー企業に転職し年間トップセールスを達成。そこでの経験を経て30歳の時に独立し、グローバル・リンク・マネジメントを設立。


※ご取材をご希望の際は、グローバル・リンク・マネジメントの経営企画課までお問い合わせください。

■株式会社グローバル・リンク・マネジメント 会社概要
・会社名:株式会社グローバル・リンク・マネジメント
・所在地:東京都渋谷区道玄坂1丁目12番1号渋谷マークシティウエスト21階
・代表者:代表取締役 金 大仲
・設立年月日:2005年3月
・資本金:500百万円(2019年12月期末現在)
・業務内容:投資用不動産開発、分譲、賃貸管理、マンション管理、仲介
・免許登録:宅地建物取引業 東京都知事(3)第84454号、マンション管理業 国土交通大臣(2)第033627号
・所属加盟団体:(社)東京都宅地建物取引業協会、(社)全国宅地建物取引業保証協会、(社)全国住宅産業協会(財)東日本不動産流通機構、(社)首都圏中高層住宅協会
・関連会社:株式会社グローバル・リンク・パートナーズ
・役員:専務取締役 富永 康将、取締役 鈴木 東洋、取締役 富田 直樹、取締役 中山 満則、社外取締役 賀茂 淳一、社外取締役 琴 基浩、社外取締役 中西 和幸

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