【アンケート】フードバンクを利用するひとり親家庭の住宅事情

GNJP

2021年8月6日 12時18分

「ワンルームアパートで暮らしているので、一人が感染しても隔離できません」不安定な住宅・仕事・生活の悪循環

認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンは、 2017年からひとり親家庭に食品を配付するフードバンク「グッドごはん」の事業を通して、子どもの貧困問題に取り組んできました。生活の重要な基盤として衣・食・住があげられますが、私たちの現在の活動は「食」に着目したものです。しかし、「食」に関する支援のみでは解決できない様々な困難があるということも忘れてはならないと考えております。
相対的貧困率が48.3%(2019年国民生活基礎調査)といわれるひとり親家庭の「住」について、「グッドごはん」利用者を対象に住宅事情の調査を実施したところ、住居の不安定さ・不便さにより子育てや就業がさらに難しくなっている状況が見えてきました。

【ひとり親家庭を対象とした住宅に関するアンケートについて】
アンケートに回答したのは、認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンが運営する、ひとり親家庭のフードバンク「グッドごはん」を利用する、「ひとり親家庭等医療費受給者証」を持つ東京近郊および大阪のひとり親です。

※ひとり親家庭等医療費受給者証:18歳未満の子どもを養育し、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭等に交付される医療費助成制度の医療証



実施日:2021年2月1日~2月14日
対象者: 「グッドごはん」に食品を申し込んだ関東1都3県および大阪の利用者
(東京は主に大田区、品川区、その他神奈川・埼玉・千葉 / 大阪は大阪府を指す)        (主に30代~50代)
有効回答数:1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)734名 / 大阪府449名 計1,183名

【調査結果】
1.住宅タイプ



住宅のタイプ調査では、一都三県・大阪ともに賃貸に住む世帯が70%前後と多く、その中でも特に「集合住宅」が調査対象全体の半分近くを占めました。
持ち家に住む世帯は一都三県で18%、大阪で15.4%という結果でしたが、全国の一般的な家庭※の持ち家住宅率61.2%と比べると明らかに「マイホーム」を持つことができない様子がうかがえます。「また持ち家に住んでいても、「別居の夫の名義なのでいつ追い出されるかわからない」「元夫のローンを被せられ払ってる」といった声があり、持ち家だから安心とは言えない場合もあります。
公営住宅は賃料が低く、低所得者やひとり親世帯が優先入居できるとされていますが、住んでいるのは一都三県で16%、大阪21.6%でした。全国の一般的な家庭※の公営/UR等の借家5%よりは多数であるものの、特に都心部では「何年も応募し続けているにもかかわらず、まったく当たらない」という声も多数あり、希望すれば簡単に入居できるものではありません。
※総務省統計局「住宅・土地統計調査」(平成30年)

2.住宅費用(一月当たり)





住宅費用の調査では、一都三県は月に6~10万円の世帯が全体の半分近くで最も多く、月10万円以上の世帯も6.7%と決して少ない数ではありません。大阪では3~6万円と6~10万円の世帯が全体の7割を占め、一都三県がより住宅費用の負担があることがわかりました。
ここで、過去の調査からグッドごはん利用者の平均的な収入を確認してみます。


こちらは、2019年9月~10月にかけて行われた「グッドごはん利用者(ひとり親家庭)の生活に関するアンケート調査」の調査報告の一部です。
この調査では、グッドごはん利用者のうち半数近くが、公的手当等を含めても年収200万円未満でした。今回調査した住宅の費用と照らし合わせると、収入に対して、住宅にかかる割合が高い人が多いと推測できます。

ある3名の利用者について、いくつかの調査から収入と住居に関する回答を抜粋しました。
【一都三県在住のAさんの場合】 

就労収入:100万円未満 
その他の収入:児童手当(国), 児童扶養手当(国), 児童育成手当(都など)
元配偶者に養育費は貰っていない    
同居家族:高校生1人(2人世帯)
住居タイプ:賃貸(公営住宅) 
住居費用(月):0~3万円

Aさんは公営住宅に住んでいます。住宅にかかる費用は比較的安く抑えられていますが、高校生の子どもとの二人暮らしには狭く、部屋数が少ないそうです。

【一都三県在住のBさんの場合】

就労収入:~200万円
その他の収入:年金
元配偶者に養育費を貰っている
同居家族:高校生1人、その他3人(3世代で同居の5人世帯)
住居タイプ:賃貸(集合住宅)
住居費用(月):6~10万円

Bさんは5人家族ですが、都心で10万円以下の家賃の集合住宅で3世代同居では部屋数が足りないことが想像できます。実際、家賃が高いことと、部屋数が世帯人数に見合わないことなどを不満に感じているそうです。お子さんも高校生くらいまで成長すると、プライベートな空間や適切な距離が必要になることもあります。それらが十分に取れないと、家族間の衝突や不和の原因になる可能性があります。

【大阪在住のCさんの場合】

就労収入:100万円未満
その他の収入:児童手当(国), 児童扶養手当(国)
養育費をもらっているかは不明
同居家族:幼児1人、小学生2人(4人世帯)
住居タイプ:賃貸(集合住宅)
住居費用(月):6~10万円

Cさんは、現在の家から職場へのアクセスに不満を感じています。小さいお子さんを1人で育てながら働いている方にとって、家から職場へのアクセス、また子どもたちの学校へのアクセスも大切です。移動に多くの時間を取られると、子育てや仕事で忙しい毎日にさらに余裕がなくなってしまいます。また、非常事態に素早く移動できないことも問題です。周りに親など頼れる大人がいない場合には、自分が子どもを迎えにいくしかありません。


3.居住環境・転居について




居住環境や転居に関する調査では、関東一都三県と大阪合わせて52.7%もの世帯が費用面で引越しが難しいと考えていることがわかりました。
他にも「不動産業者などとのやり取りや契約に不安がある」「賃貸契約を断られたことがある」「保証人がいなくて良い物件を借りられない」などがありました。
十分な収入がないことや、外国籍であることを理由に不動産業者などから入居を断られるケースもあります。




4.不満に思っていること・不安に思うことは
東京で約80%、大阪で約75%の世帯が現在の住居に不満を持つと答えました。
「家賃が高い」と考える世帯や、「狭い」「部屋数が少ない」「性別の違うきょうだいが同室」など世帯の人数にそぐわない住宅に住んでいると考える世帯が多くいました。またそのほかにも、「買い物に不便」や「職場へのアクセスが悪い」など利便性に関する意見や、住居の老朽化や設備が古いことが心配だという意見も散見されました。

利用者の方々のコメントをご紹介いたします。

4.5畳のダイニングキッチン兼居間兼寝室になってます。
立ち退きを迫られていて、近々引っ越しをしなくてはならない
(コロナで)飲食業なのでシフトに影響が出てローン返済が不安になり新しい仕事を増やすことにしました。
思春期を迎えるにあたり部屋を与えてあげたいが家賃が高すぎるので一部屋で生活している。都営住宅は必ず当選するものでもないので家賃補助があったらいいなと感じる。
ワンルームアパートで暮らしているので、一人が感染しても隔離できません。
都営住宅に当たらない。20年間申し込んでいる。
水漏れ、傾き、外に通じる穴、侵入物など。当時皆で住める広さで一番安い所にした
医療機関で仕事をしており、毎日のように感染症疑いの患者さんと接している為、万が一自分が感染した時の事を考えると、子供は受験生なので不安です。現在は住宅はワンルームで寝食はすべて一部屋なので隔離もできず、都営住宅も何年も当選しない。
在宅勤務、自宅学習により、狭い部屋がより狭くなっている。収入との関係もあり、広い部屋に越す事もままならない。
都営に当選した先は5階建てエレベーター無しの5階でした。膝が悪く定期的に痛み止め注射を売っているので階段の昇り降りが辛いです。
住めるだけでありがたい
別居夫の名義なのでいつ追い出されるかわからない
元旦那のローンを被せられ払ってる
身体障害児がいるので段差が危ない。風呂が狭くて入浴しずらい。
元旦那と共有名義の為、ローンがまだ半分も終わっていない為売るに売れない。
自分一人の部屋がないため家庭で勉強に集中できない、タブレットをそれぞれに用意できない
引っ越したいが収入がないので契約出来ない。

夏休みは子育てをしている家庭にとって食費や光熱費などに関わる出費が増える時期で、家計がより圧迫されます。度重なる緊急事態宣言によって、コロナ禍以前よりもさらに年収が減っている世帯も少なくありません。生活にかかる費用をできるだけ減らしたい、抑えたいと思っていても、仕事や子育てに追われる毎日の忙しさや、「自分が何とかしないといけない」というプレッシャーで、日々の生活の範囲を超えたことまで一人で考えることはかなり高いハードルです。
住宅環境の改善は、考えて行動を起こすまでに大きな時間と労力、そして費用を必要とします。その余裕を持てるひとり親家庭は少なく、不満や不安をを感じていても行動を起こせないという悪循環に追い込まれています。ひとり親家庭が住みやすい環境を整えるためには、経済的・精神的な「安定」「余裕」が必要不可欠なのです。

■ひとり親家庭のフードバンク「グッドごはん」とは
「グッドごはん」とは、主に東京近郊および大阪在住のひとり親家庭(※)を対象に、食品を無料で配付する事業です。企業や個人の寄付によって集まった、お米や調味料、レトルト食品、お菓子など、約18,000円相当のカゴいっぱいの食料を毎月ひとり親家庭に配付しています。

※1 当事業の対象者は、ひとり親家庭等医療費受給者証をもつ、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭で、通常は東京都大田区および大阪市の配付拠点に直接取りに来られる方を対象としています。
https://www.gnjp.org/work/domestic/gohan/

※グッドネーバーズ・ジャパンは、現在ひとり親世帯向けの住居支援事業を検討しています、東京都大田区周辺の物件を無償もしくは格安で提供してくれる方を募集します。

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