『人民日報海外版日本月刊』は、あすか信用組合 常務理事 尹健人氏のインタビュー記事を公開いたします。
あすか信用組合(理事長・金哲也)は、1966年に在日韓国人の相互扶助を目的とした地域信用組合として設立され、東京・埼玉地区を中心に東日本を主な事業エリアとして店舗展開してきました。2021年7月に「国際営業部」を開設し、在日中国人など日本に在留する外国人に向けたサービスを提供しています。先ごろ、同組合の尹健人常務理事に、信用組合の役割と使命、国際営業部の事業内容、地域社会貢献等について伺った記事内容を紹介いたします。(聞き手は本誌副編集長 原田繁)
あすか信用組合 常務理事 尹健人
■地域社会に貢献できる金融機関を目指す
―― 貴組合の創業は1966年ですが、2002年4月、「あすか信用組合」に改称し、2022年に20周年を迎えます。貴組合設立の目的と特徴について教えてください。
(尹)
当組合は、当時金融サービスを受けることが困難であった在日韓国人、中小零細事業者のために設立されました。
その間、在日韓国系金融機関として営業展開してきましたが、2002年4月からは「あすか信用組合」に改称し、広域信用組合として首都圏を中心に東日本に16店舗のネッワークを展開しております。
当組合はもともと在日韓国人のための組織という成り立ちですが、顧客層を見ますと、すでに日本のお客様が7割近くになっています。
残りの約3割は韓国からの戦前からの居住者に加え、1988年のソウルオリンピック以降、海外渡航自由化に伴い日本に移住された方などといった構成の中で、最近では特に中国のお客様が増えています。
現在の日本社会では、永住権のない在日外国人の方はまだまだ金融機関から住宅ローンや事業資金を借り入れするのに困難を感じておられる方が多いのでないかとはと思います。
当組合は、その設立経緯から「様々な価値観、・属性を持つお客様と共に成長し、経済的地位の向上に貢献する」ことを理念としており、在日外国人の方々や金融機関取引が困難と感じておられる方々を対象として積極的に取引を推進しております。それが、他の金融機関とは違う当組合の特徴の一つであると考えています。また、当然のことですが、社会における組合の使命を忘れず、健全経営を基本として地域社会に貢献し、社会的責任を果たすことで信頼される金融機関を目指しています。
―― 銀行と信用組合では、金融機関として何が違うのか分かりにくいという声があります。
(尹)
信用組合は、銀行とは経営スタンスが少し違います。「相互扶助」の理念に基づき、組合員(お客様)一人ひとりが預金しあい、必要な時に融資することを使命として生まれた協同組合組織の金融機関です。
組合員は、それぞれの地域の中小企業・小規模事業者や居住者、勤労者に限られています。つまり、利益を追求することを目的とした金融機関ではなく、お客様の発展に貢献することを目的とした地域密着型金融機関です。
端的に言えば、銀行は株式会社組織で営利目的ですが、信用組合は組合員の出資による共同組織で相互扶助が目的であることに大きな違いがあります。
「中小零細企業の街の金庫」というのが金融機関としての信用組合の役割とも言えますが、現在ではインターネットバンキングによる金融サービスも増え、銀行も企業だけではなく個人向けのサービスも充実してきている為、はっきりした線引きは難しくなっているのが実情です。
■他にないサービスを提供し在留外国人に寄り添う
―― 貴組合は2021年7月に国際営業部を開設しています。その中で在日中国人向けのサービスがあると聞いていますが、国際営業部開設の経緯と事業内容について教えてください。
(尹)
現在、入管の統計で見ますと、約290万人の外国人が日本に在留しています。そのうちアジアの方が約240万人で、中国の方が約75万人、韓国人が約46万人です。その後は、ベトナム、フィリピン、ブラジルと続くのですが、2000年頃は韓国・朝鮮合わせて約60万人、中国の方が約35万人でしたので、今では逆転して中国がトップに入れ替わっています。
文化の面からみても、中国、韓国、日本は、言葉は違うとしても同じ漢字圏です。儒教、仏教を背景にした物の考え方や生活習慣など似ている点も多く、歴史的に見ても交流が盛んで密接であったことからも、お互いに非常にアプローチしやすい関係であると言えます。
御存知のように、中国の不動産の所有形態として、国家の許可によって使用する権利を持つことができますが、居住用か商業用かなど種別によって、使用年限がそれぞれ決められています。
日本は不動産の登記制度があって、個人で不動産を所有することができ、誰がどの不動産を持っているのか誰でも閲覧可能です。しかも使用年限は限定されていません。
このようなこともあり海外で不動産を持ちたいと考える中国の方たちは、日本や韓国は価格が比較的安価であることから、不動産を取得したいと思っているのではないでしょうか。
2017年から国際営業部の前身の国際融資推進センターを立ち上げて、中国マーケットに向けて営業展開しました。最初は池袋周辺の中国系不動産会社に飛び込み営業をして、そこから口コミによる開拓を目指しましたが、やはり言葉の壁というか、情報の共有が課題になりました。
中国ではウイチャット(WeChat:微信)、韓国はカカオトーク(KakaoTalk)、日本はLINEなど、それぞれ違うSNSのコミュニティがあります。そういう外国人のコミュニティに入り込んでいくにはどうしたらいいかを試行錯誤しながら、とりわけ中国人マーケットの開拓に取り組んできました。結果、一定の成果は得られたものの本格的なセグメントとしての成果には結び付きませんでした。
そこで、中国の銀行勤務の経験があり、日本語も中国語も堪能な人材を求めていた中で、条件に合う人材を紹介していただき、そういう方たちの力を借りて、ようやく時宜にかなった在日中国人向け商品の紹介やサービスの提供を始められるようになり、少しずつですが、着実に成果を上げられるようになりました。
国際融資推進センターはこれまで主に在日外国人をターゲットに営業展開してきましたが、韓国、中国のお客様の比率が徐々に増え、貸出金残高が一定規模になりましたので、センターから営業部に昇格させ、2021年7月に国際営業部として再スタートしました。
国際営業部という部署を開設している信用組合は他に多分ないと思います。今後も在日外国人マーケットにおける営業に取り組むなかで中国はもちろんですが、それ以外のアジアの国々のお客様にもサービスを提供し、さらに大きな部署にしていきたいと考えています。
そのために、今後多くのアジアの国々の優秀な人材を雇用して、特に重要なマーケットである中国の方を中心に、積極的に取り組んでいく所存です。
―― 具体的にどのようなサービスを提供しているのですか。
(尹)
具体的な商品として、外国人向けの住宅ローンがあります。これまで永住権のない方への住宅ローンは少なかったんです。もちろん過去に日本の地方銀行など何行かはやっているのですが、金利が高く、例えば来日後の数年間の所得や、勤続年数などの条件が厳しく、ローンが組めず諦めていた方が多くいらっしゃいました。
そこで、他の金融機関にはないサービスを提供しようと考えました。当組合の場合、永住権がなくても定住者の方であれば、例えば日本に来てわずか3年でも金利は年1.25%です。
35年ローンを組む場合、年収400万円でも3,000万円の物件が購入可能です。なおかつ頭金は売買金額の2割で大丈夫です。おそらく今、日本の中で、永住権のない方向けの住宅ローンとしては、銀行などを含め当組合の条件が一番いいと自負しています。ぜひ皆さんに利用してほしいと思います。
■初めての中国で大きなパワーを感じる
―― 中国に行かれたことはありますか。中国人の印象についてお聞かせください。
(尹)
以前在籍した銀行が2013年に中国の銀行と業務提携をした際、大連の研修所に3泊4日で出張に行ったことがあります。中国に行ったのはその時が初めてで、韓国・仁川経由でしたが仁川から大連まで飛行機で約40分でした。その時韓国からは本当に近いんだなと感じました。
当時の大連は、街のいたるところでマンションの建設ラッシュでしたが、これから更に都市化していくんだなと、とてもパワーを感じました。その後、上海や北京にも行ってみたかったのですが、なかなかチャンスがなく、大連に一回行ったきりです。今後もぜひ中国には行きたいです。
中国の方の印象ですが、義理人情に厚い方が多いと感じています。それから、非常に商売上手な方が多いですね。私は中国料理が大好きで中国の方と一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりしていますが、中国経済の急速な発展を象徴するかのように、自分に自信を持っている方が多かったですね。
■お客様と真摯に向き合い改善への努力を続ける
―― コロナ禍によって、国民生活は大きな打撃を受けました。貴組合はどのようにこの困難を乗り越えてきましたか。
(尹)
コロナ禍になって早2年が経ちましたが、未だ収束する兆しが見えていません。これはウイルスvs全人類ですね。国際線が飛ばないなんてことは、おそらく戦争中以外になかったのではないでしょうか。ですからそれくらい異常事態だと言えます。
このような状況のもとでは、業種を問わず、さまざまなところに打撃があって当然です。特に私ども金融機関にとって何が一番打撃かと言えば、お客様の事業不振です。
ニュース報道などでご承知のように、店を開けてもお客様が来ない、物が売れず売り上げが立たない。そうするとみんな赤字になるわけです。そのために資金が必要になります。
昨年の5月以降、保証協会の保証付き及びプロパーによるコロナ対応融資に取り組みました。今も融資の期日延長や、元金を据え置きにするなど対応していますが、いつまで続くのか全く先が見えていない状況です。
インバウンド関連は8割~9割の収入減です。宿泊施設をそのまま賃貸ビルに変えてしまうなど、業種転換する方法をとっているところさえあります。
当組合としては、そうした多くの困窮したお客様と真摯に向き合い、改善に向けた提案をするなど日々努力を続けています。
■地域の発展とともに国際化、多様化を目指す
―― 今、どの企業も世界的な潮流であるSDGsに取り組んでいます。貴組合の社会貢献、今後の事業の取り組みについて、お聞かせください。
(尹)
当組合は、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」の趣旨に賛同し、「時代の変化に適応しながら高い志をもち、多様なお客様に円滑な金融サービスを提供」するという経営理念に基づき、地域の発展ならびに持続可能な社会の実現に努めています。
また、通常のCSR活動ですが、東京韓国学校への奨学金給付を行っています。コロナ禍に関わらず、親の商売がうまくいかない中、子供の授業料を出せないご家庭などを対象として、3年前から始めました。引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた様々な支援に注力していきたいと考えています。
そして、当組合は多様性(ダイバーシティー)を重視し、多様であることを目指しています。今後は特に、在留外国人の中でも一番多い中国の方々をポテンシャルが高いマーケットとして大切にし、積極的に取り組んでいきたいと思います。
先ほど申し上げましたが、永住権のない方にとって、他の金融機関は敷居が高いようで、当組合には住宅ローンや不動産投資ローンなどの相談等を含め、中国をはじめとする外国人のお客様に数多くご来店いただいております。今後も中国国籍の方や、それ以外の外国籍の方を更に雇用して、本当の意味での国際化、多様化を目指していきたいと思っています。
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