グローバル都市不動産研究所 第28弾(都市政策の専門家 市川宏雄氏監修)
投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメント(本社:東京都渋谷区、以下GLM)は、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所(以下、同研究所)」を2019年1月1日に設立しました。
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このたび同研究所では、調査・研究の第28弾として、東京都区部を中心とした東京圏の2024年の地価動向に加え、令和6年間の地価上昇率を分析した結果を紹介します。
01 コロナ後の東京圏の地価動向
商業地、住宅地とも千葉県流山市など東京近郊エリアが上昇
新駅・新線開業と子育て世代の動きに注目
商業地・住宅地共に全国的に地価上昇
今年3月に国土交通省が発表した2024(令和6)年の地価公示価格(以下「公示地価」)によると、全国平均(全用途)は前年比で2.3%の上昇と33年ぶりの高い上昇率となりました。新型コロナウイルスが感染拡大した2021年は▲0.5%に下落しましたが、2022年0.6%、2023年1.6%と早くも回復し、2024年はさらに上昇幅が拡大しました。用途別にみても、住宅地(1.4%→2.0%)、商業地(1.8%→3.1%)とも大きく上昇しています。
公示地価発表時には、商業地の地価上昇率トップ3(地点別)が大手半導体メーカー進出エリアの熊本県大津町、菊陽町、北海道千歳市で、いずれも30%を超える上昇を記録、住宅地のトップ(地点別)が外国人観光客に人気の北海道富良野市(27.9%上昇)で、インバウンド(訪日外国人)回復の影響が色濃くあらわれたことなど、地方の地価上昇が話題となりました。
もちろん三大都市圏でも着実に地価上昇が続いており、なかでも東京圏は全用途平均で4.0%上昇(前年2.4%)、用途別でも商業地は5.6%上昇(同3.0%)、住宅地は3.4%(同2.1%)と、大阪圏、名古屋圏を上回る上昇率となっています【表1】。
今回のレポートは、コロナ禍前の勢いを取り戻しつつある東京の地価動向に焦点を当て、詳しくみてみましょう。
商業地は都心部の伸びが近郊へ波及
東京圏内の各地域の動向をみると、商業地では東京都区部が7.0%、とりわけ区部都心部が7.3%と、コロナ禍前2020年の8.5%、9.6%に近づく上昇率となっています。区部南西部、区部北東部でもそれぞれ6.7%、6.6%と区部都心部に続く高い上昇率を示しています。また、神奈川県(5.4%)、千葉県(5.3%)、埼玉県(2.4%)でも2020年を上回る上昇率となり、周辺3県に上昇傾向が波及していることが分かります。
住宅地では東京都区部が5.4%、区部都心部が7.1%と、その上昇率は2020年を上回っており、区部南西部、区部北東部とも5.0%と順調に上昇しています。周辺3県では、神奈川県(2.8%)や埼玉県(2.0%)に比べて千葉県(4.3%)の上昇率が突出しており、千葉近郊に注目が集まっていることがうかがえます【表2】。
1都3県ごとに商業地で上昇率が最も高かった上位10地点をみると、東京都内では台東区西浅草2丁目の17.8%を筆頭に浅草エリアが5位までを占め、インバウンドの影響がみてとれます。駅前再開発が進む足立区千住(北千住駅周辺)や中野区中野(中野駅周辺)も上位に入っています。
千葉県内ではJR京葉線の幕張豊砂駅(2023年3月開業)の新駅効果により千葉市美浜区豊砂27.1%が目立ちますが、東京近郊の浦安市、市川市、船橋市の主要駅エリア、流山市の流山おおたかの森駅エリアでも15%以上の高い上昇率を示しています。
神奈川県内では横浜市の桜木町駅・関内駅エリア、川崎市の川崎駅エリアが上位を占めるほか、相鉄・東急新横浜線開業効果の横浜市旭区二俣川(二俣川駅周辺)14.4%が目を引きます。埼玉県内ではさいたま市の大宮駅・浦和駅エリアが堅実に上位を占めています【表3-1】。
住宅地は子育て支援の街が人気
住宅地の1都3県ごとの上位10地点をみると、千葉県流山市の流山おおたかの森、流山セントラルパーク、南流山駅エリア、市川市の南行徳、行徳、市川駅エリア、安孫子駅を最寄とする柏市布施新町で上昇率の高さが特に目立っています。流山市は「レポート第23弾」でも紹介したように「母(父)になるなら、流山市」のキャッチフレーズのもと次々と子育て支援策を打ち出し、また、千葉県市川市も第2子以降の保育料無償化、私立の小中学校の給食費無償化(いずれも所得制限なし)、18歳までの子ども医療費助成など子育て支援に力を入れ、どちらも子育て世代に人気の街となっています。
東京都内では、港区芝浦や港南など田町・品川駅周辺の再開発が進むエリアのほか、新宿区赤城下町(神楽坂駅)、目黒区三田(恵比寿駅)、目黒区中目黒(中目黒駅)などの高級住宅地で高い上昇率となっています。
神奈川県内では、やはり相鉄・東急新横浜線の開業効果で横浜市保土ヶ谷区(西谷駅)、大和市深見台(大和駅)、藤沢市湘南台(湘南台駅)の上昇が目立ち、茅ヶ崎市の辻堂、茅ヶ崎駅周辺、鎌倉市七里ガ浜(鎌倉高校前駅)などの湘南・鎌倉エリアも上位に入っています。
埼玉県内では、さいたま市の浦和・大宮駅エリアのほか、川口市の南浦和・蕨駅周辺、戸田市の戸田公園駅周辺など東京近郊のエリアで高くなっています【表3-2】。
02 東京23区別にみた地価動向
商業地はインバウンド人気の台東区を筆頭に荒川区、中野区、杉並区、豊島区で上昇
住宅地は都心へのアクセスの良い豊島区、中央区、文京区、目黒区、港区で隆盛
商業地は城東・城北に大きな伸び
次に、東京23区内の商業地・住宅地の公示地価の動向をみてみましょう。
商業地では23区平均で7.0%(前年3.6%)の上昇で、2年連続ですべての区が上昇し、上昇幅も拡大しました。ここ10年間の推移を区別にみると、2017年まで都心3区と渋谷区が地価上昇をけん引してきましたが、2018年から台東区が加わり、2020年には台東区の14.9%を筆頭に、都心5区のほか、江東区・墨田区などの城東エリア、荒川区・北区などの城北エリアも10%前後の上昇率を記録しました。2021年にはすべての区で下落となりましたが、2022~23年に徐々に回復し、2024年は台東区の上昇率9.1%(前年4.1 %)を筆頭に、荒川区8.3%(同5.2%)、中野区8.2%(同5.2%)、杉並区8.0%(同4.7%)、豊島区8.0%(同4.6%)が続いています【表4-1】。台東区は、浅草や上野などのインバウンド効果が大きく影響し、荒川区は、日暮里駅の成田空港への交通アクセスの良さをはじめ、西日暮里・三河島・町屋駅周辺で進む再開発プロジェクトが評価されています。また、中野駅の再開発のほか、中央線沿いの高円寺・阿佐ヶ谷・荻窪、山手線沿いの池袋・大塚・巣鴨の商業のにぎわいが改めて評価され、中野区、杉並区、豊島区の商業地価格が大きく上昇しました。
住宅地は中心・湾岸部と外縁部で二極化
住宅地では、23区平均で5.4%の上昇(前年3.4%)で、3年連続ですべての区が上昇し、こちらも上昇幅が拡大しています。区別の推移をみると、2017年まで都心3区が中心となり地価が上昇していましたが、2018年に港区のほか文京区・豊島区・北区・荒川区などの城北エリア、品川区など臨海部に面したエリアが上昇、2019年には台東区、墨田区、江東区、新宿区、渋谷区などへも波及しました。2021年には港区と目黒区を除く21区で下落しましたが、2022~23年にかけて回復し、2024年には豊島区の上昇率7.8%(前年4.7%)を筆頭に、中央区7.5%(同4.0%)、文京区7.4%(同4.4%)、目黒区7.3%(同3.7%)、港区7.2%(同3.6%)が続いています。これらの区の上昇は、都心からアクセスの良い区部中心部の住宅地や、再開発が進む湾岸エリアが改めて評価されたことを意味します【表4-2】。
なお豊島区では目白・大塚・駒込のほか有楽町線沿いの要町・千川など、文京区では本駒込・千石・小石川・関口など、目黒区では恵比寿・目黒駅周辺や中目黒・青葉台・駒場、自由が丘などの高級住宅地で上昇、中央区では水天宮のほか築地・勝どき・月島の湾岸エリア、港区では麻布・青山・白金高輪のほか芝浦・港南といった湾岸エリアで上昇しています。
一方、世田谷区4.0%(同2.3%)、練馬区4.0%(同2.8%)、葛飾区4.2%(同2.8%)、江戸川区4.6%(同3.2%)、足立区4.7%(同3.4%)などの区部外縁部では上昇率が4%台にとどまり、上位の区ほどの勢いはみられません。コロナ禍でのリモートワーク増加を背景に戸建て住宅の人気も一時期高まりましたが、コロナ5類移行や建築コスト上昇があいまって、戸建て住宅地を中心とした区部外縁部では地価の伸びが鈍くなっているようです。このように東京23区内でも区部中心部および湾岸エリアと、区部外縁部とで地価の二極化が進みつつあります。
2024年の東京圏全体と東京23区内の地価動向を併せてみると、国内の富裕層や共働きで世帯収入の高いパワーカップル、海外投資家などに人気の高い区部中心部や湾岸エリア、そして子育て世代に人気の高い流山市や市川市、新線開業で都心へのアクセスが向上した横浜市保土ヶ谷区や大和市といった東京近郊で、住宅地において2つの上昇トレンドが同時並行で進んでいることが分かります。
03 令和6年間で地価上昇した東京の住宅地と今後の注目エリア
地価上昇率トップは港区港南3丁目 高級住宅地を臨海エリアが追随
住宅地としてのイメージアップは子育て支援の拡充がカギに
コロナ禍でも手堅い高級住宅地
続いて、東京23区内の住宅地で「令和」(2019年以降)の地価上昇率ランキングの流れをみていきましょう【表5】。
2019(平成31=令和元)年のランキングトップは渋谷区恵比寿西2丁目(代官山駅周辺)でしたが、上位30位中20地点がランクインした文京区、豊島区、北区、荒川区、足立区などの城北エリア、2地点がランクインした品川・田町エリアが、「令和」初頭の地価上昇の注目エリアとなりました。
コロナ禍の2021年になると、上位30位中、目黒区が11地点、港区が9地点ランクイン。目黒区では青葉台、目黒、中目黒のほか都立大学や祐天寺など、港区では品川・田町のほか赤坂、麻布、青山、高輪などの高級住宅地が入り、都心への交通利便性と高い住環境を兼ね備えたエリアがやはり安定した上昇をみせました。
2024年には、港区芝浦、港南の田町・品川エリアが1位、2位となり、品川区の東品川、大井などの湾岸エリアにも波及し始めました。目黒区の三田、中目黒、青葉台、自由が丘なども引き続き上位にランクイン。文京区、北区、荒川区、板橋区、足立区などの城北エリアもふたたび11地点ランクインしています。
令和における地価上昇率ランキング
最後に、「令和」6年間でみた住宅地価格の上昇率ランキングTOP30を【表5右欄】に示します。これらの住宅地は、「令和」最初のコロナ禍という試練をくぐり抜け、アフターコロナとなった今も通じて上昇期待度が高いエリアと言えるでしょう。
ランキング1位、2位には港区港南、芝浦が並び、この地点での6年間の上昇率は60%前後を記録しています。品川・田町の再開発への期待度が高いことがうかがえます。続いて、渋谷区恵比寿西や文京区本駒込・本郷といった高級住宅地に並び、足立区綾瀬・千住寿町、荒川区東日暮里・東尾久、北区赤羽・滝野川が上位にランクインしました。城北エリアの住宅地としてのイメージアップが進み、このエリアへの注目度が引き続き強いことを示しています。
また、上位30位中、豊島区(駒込、東池袋、南池袋、北大塚、目白)が7地点ランクインしていることも目を引きます。豊島区は、池袋駅前の大型商業施設や目白・大塚駅等に多数あるスーパーマーケットなどで買い物利便性が高いほか、近年進められてきた公園整備や、女性・子育て支援の拡充により子育てしやすい街との認識が高まってきています。こうした子育て世代への人気が多数のランクインに寄与したものと考えられます。
このように東京23区内では、港区の田町・品川駅周辺の臨海エリアと、子育て支援に力を注ぐ豊島区をはじめ、住宅地としてのイメージアップが進んできた城北エリアが引き続き住宅地の地価上昇の注目エリアであると言えそうです。
04 都市政策の第一人者 市川宏雄所長による分析結果統括
東京圏は再開発や新駅・新線開業と子育て支援の効果で地価が上昇
東京の不動産購入はマイナス要件も考えて慎重に判断することが大切
商業地・住宅地共に全国的に地価が上昇(前年比2.3%)しました。東京圏は全用途平均で4.0%(前年2.6%)上昇し、商業地では東京都の中心部(7.3%)がコロナ禍前2020年の上昇率(8.5%)に近づきました。住宅地でも商業地に近い上昇で、東京都中心部(7.1%)と千葉県(4.3%)は、いずれも神奈川、埼玉の2倍近い伸びを示しました。
商業地は、23区平均上昇率を超す台東区、荒川区、中野区、杉並区、豊島区の伸びが注目されます。浅草、上野へのインバウンドの増加、成田空港へのアクセスを持つ日暮里駅、町屋駅周辺での再開発、中野駅の再開発のほか、中央線沿い、山手線北部沿いでのにぎわいの影響がみられます。
郊外の住宅地では千葉県の流山おおたかの森、南行徳、我孫子駅エリア周辺などが子育て支援の街として人気となっています。神奈川県では相鉄・東急新横浜線の開業効果で西谷駅、湘南台駅周辺などの地価上昇が目立ち、湘南・鎌倉エリアも根強い人気です。東京都内では、田町・品川駅周辺の再開発が進むエリア、神楽坂駅、恵比寿駅、中目黒駅周辺などの高級住宅地で高い上昇率となっています。
都内23区の住宅地は平均で5.4%の上昇率ですが、アクセスの良い中心部の住宅地で高い上昇率となりました。コロナ禍でも目黒区、港区の高級住宅地は地価を維持し、コロナ禍明けに地価上昇をする地点の数が増えつつあります。都心エリアは、国内の富裕層や共働きで世帯収入の高いパワーカップル、海外投資家などに、城東・城北エリアでは東京に流入した新規居住者に人気があります。また、上昇の顕著な区部中心部および湾岸エリアと、それほどでない区部外縁部とで地価の二極化が続いています。
東京の地価は、短期的には横ばいから緩やかな上昇が続くと予想されますが、中長期的に見ると人口減少や経済状況等の影響でエリアによっては上昇が見込まれない可能性もあります。今後東京の不動産購入を検討する場合には、考えられるマイナス要件も見極めて慎重に判断することが大切でしょう。
取材可能事項
本件に関して、下記2名へのインタビューが可能です。
ご取材をご希望の際は、グローバル・リンク・マネジメントの経営企画部 広報担当までお問い合わせください。
・氏名 :市川 宏雄(いちかわ ひろお)
・生年月日 :1947年 東京生まれ(76歳)
・略歴 :早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士。
世界の都市間競争の視点から大都市の将来を構想し、東京の政策には30年間にわたり関わってきた東京研究の第一人者。
現在、明治大学名誉教授、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
・氏名 :金 大仲(きむ てじゅん)
・役職 :株式会社グローバル・リンク・マネジメント
代表取締役社長
・生年月日 :1974年 横浜生まれ(50歳)
・略歴 :神奈川大学法学部法律学科卒業。新卒で金融機関に入社。その後、家業の飲食店を経て大手デベロッパー企業に転職し年間トップセールスを達成。そこでの経験を経て30歳の時に独立し、グローバル・リンク・マネジメントを設立。
会社概要
会社名:株式会社グローバル・リンク・マネジメント
会社HP:
https://www.global-link-m.com/所在地:東京都渋谷区道玄坂1丁目12番1号渋谷マークシティウエスト21階
代表者:代表取締役社長 金 大仲
設立年月日:2005年3月
資本金:5億68百万円(2023年12月末現在)
業務内容:投資用不動産開発、分譲、販売、仲介
免許登録:宅地建物取引業 東京都知事(4)第84454号、賃貸住宅管理業 国土交通大臣(01)第0001837号、不動産特定共同事業 東京都知事 第114号
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